他のカップル達の初々しいバレンタインを眺めながら創一はもうそんな気持ち等消えてしまった…というよりも互いに完璧を追求しすぎたせいで昔のようなそんなピュアなイベント事を忘れてしまったなと賭郎本部に出社してすぐ渡されたチョコレート達を見つめて思った
御屋形様と書かれた部屋に入りデスクに座って報告書等を眺めつつその傍らで人生初のバレンタインを思い出す

まずバレンタインという文化を認識してプレゼントをされたのは5歳頃その時も今と変わらず専属メイドであるなまえからだった

「そーいち様、ハッピーバレンタインです」

その時の彼女はまだ不器用で然しながら努力をしたのだろう、チョコレートを溶かして型に入れて固めただけのそれがキラキラと輝いて見えた、横に立っていた栄羽が「お受け取りください」と言うものだから遠慮なく受けとってマナー等忘れて食べた

「すごく美味しいよなまえありがとう」

「よかったです、初めてお菓子を作りましたから」

それまで渡されたこともなかった故に彼女に貰うバレンタインは必然的に1年の中でも特別なものになった、人から物を貰う時は充分警戒をと教育されたがなまえに対しては信頼がある故に遠慮無しに口の中に放り込んだ
チョコレートケーキ・ガトーショコラ・クッキー・マカロン・カップケーキ・ボンボンショコラ等この行事に見合ったお菓子は一通り貰い尽くた、それでもやはり楽しみは失われることがなくそれはきっと彼女から貰えるからだろう

「創一様、なまえですが」

「どうぞ」

ふと眠りかかった意識が彼女の声で呼び戻されてドアが開きワゴンを押して入ってくる、時刻はいつの間にやら15時を回っており紅茶の柔らかい匂いがする

「バレンタインですからたまにはおやつとしてケーキにしてみましたがどうですか」

「丁度考えてた所だからよかった」

「私も毎年これが楽しみでございます」

「ホワイトデーは何か欲しいものでもある?休暇なら別であげるから欲しいものがあるなら言って欲しい」

念の為毎年恒例の質疑を行っても彼女は困ったように眉を下げる、手元の書類を片されて自身の目の前にはダークブラウンのツヤの出たオペラとアールグレイを手元に置かれる、暖かい手拭きを差し出されてなまえに返却をして小さく頂きますと伝えれば彼女は背中を向けて立ち上がる

「ねぇなまえさん、今日はここにいてよ」

「勿論構いませんよ」

「これ美味しいね、またお菓子の腕を上げたみたい」

「この日の為に正月頃から勉強しますから」

その言葉に関心をしてフォークの上に乗ったケーキを彼女に差し向ける、少し目を丸くしたあと扉をじっと見つめてから彼女の小さな口の中に消えていく

「ほら美味しいでしょ」

「えぇですが創一様のために作ったものですから私が食べるとは」

「いいんだ、今日は恋人の日だから僕たち二人きりの時間くらい楽しんだって罪にはならないさ」

そう伝えれば彼女はワゴンから更にひとつケーキと紅茶を取りだした

「では、私も楽しんでも?」

「あぁもちろん、来月も僕ら2人で楽しもう」

その先もずっと毎年僕達恋人の日を楽しもうと笑いあってなまえが差し出したフォークの上のケーキを自身の口の中にしまいこんだのだった。


創一


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