色恋沙汰に興味が無さすぎたせいで本部に来て仲のいい最上立会人の黒服さん達にチョコレートを渡されてから今日が恋人や友達の楽しいバレンタインだったと思い出す
今日の本部勤務のメンツを見て"能輪巳虎"と書かれており少し頭が痛くなる、おはようございますと挨拶をしつつ自席について自身の会員からの派遣要請を確認しつつ、そのまま仕事をこなす

「よぉ」

「おはよう巳虎くん」

「今日は予定ないのかよ」

「一旦ね、まぁやることはそれなりにあるけどね」

「流石事務手伝いしてるだけあるな」

「巳虎くんこそ忙しいんでしょ立ち会い呼ばれてるから」

「まぁな、それより俺に渡すものあるんじゃねぇのか」

予想通りの言葉に苦笑いする、いつも以上に甘い匂いのする室内で自分だけが何も用意出来ずにいるのは理解しており、その表情を読み取ったのか巳虎はため息をこぼした

「…期待してねぇよ、悪かったな取り敢えずもう行ってくるわ」

明らかに不機嫌ですと言った顔に罪悪感が残りふと彼のデスクを見れば大量のチョコレートがあり、自分と同じチョコレートに貰った相手はわかってるが今更何か買う事も出来ずに仕事片手間に何かできないかと考えつつキーボードに指を走らせた

結局その日巳虎の立会は長引いたらしく先に帰ると連絡を入れてスーパーに駆け込みバレンタインコーナーにある"簡単フォンダンショコラキット"と書かれたそれを手に取ってレジに走る
巳虎の自宅のキッチンは一人暮らしには見合わないほどに広く綺麗なシステムキッチンでありオーブンがあることも確認済みだった、エプロンを身にまといキットに書かれた通り切って溶かせて混ぜて形に入れた

「嘘でしょ」

黒ずみになったそれに間違いないと思わずオーブンを眺めれば280°と表記されており、適正温度は180°であり見間違えを起こしたのだとため息をこぼす

「なまえ居たのか…って何泣いてんだよ」

「バレンタイン忘れてたから作ったのに失敗しちゃってごめん」

「これの事か」

「ちょっと巳虎くんそれだめって」

「うん、美味いよスゲェ美味しいからそんな顔するなよ」

帰ってきてそうそうキッチンでしゃがみこむなまえの前にある冷めきった黒焦げのフォンダンショコラを掴んでかぶりついた巳虎は2.3口でそれを食べきってしまいそう告げる
少しバツの悪そうな顔で手を洗ってから入口に置いてた一輪の薔薇を渡してはみつめていう

「ハッピーバレンタイン、また来年もあれば嬉しいんだけど」

「っうん絶対来年は失敗しないから待っててね」

受け取った彼女の顔に釣られて微笑み軽く口付けた唇はやはり少し墨臭かった。

巳虎


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