罰というものは悪い人に与えられるのだと親に教えられたのを思い出す、そう例えば今みたいな珈琲を差し出された状況でも

「どうぞ遠慮なさらず」

オーナーは少し変わっているけれど悪い人じゃない、紳士的で年齢をいい意味で重ねてダンディなおじ様で美形好き、店の経営も順調で人を雇うのも失敗を踏みつつもそれなりの人材を置いてくれる
百鬼夜行のキッチン代表になってからもこの人を心底尊敬して、例え突然血濡れの男を連れてきたり店内で暴れる客を殴りかけたりしたとしても、素晴らしい人だと思う
例えこのコーヒーが原因で人がやめたり、麻薬中毒者みたいになっている人がいたとしても、決してオーナー夜行妃古壱に従い続けようと思っていた

「オーナーが私に珈琲を入れてくださるのは珍しいですね」

「えぇバレンタインですから特別仕様です、たまには貴方にも飲ませなくては皆に不公平だと思われます」

言いたい、飲まないという幸福もあるのだということを、けれど昔リンゴを片手で潰したこの人に逆らえない気がしてなまえは目の前の湯気をみつめた、ほんのりと甘いチョコレートの匂いとツンとした珈琲の匂い

「苦いのが苦手なんですよね」

「ですからチョコレートを混ぜてみました、結構大変なんですよ温度の調整や美味しいチョコレートを探すの」

「いいチョコレートを使ってるなら私ではなく他のバイトの子達に」

「なまえさんには普段から店の殆どを任せていますから、こういう時に特別扱いしたいんです」

「ですが」

「嫌でしょうか」

この人も付き合いが長くなれば人の扱い方を理解してきたなと思う、少し困ったように眉を八の字にして見つめてくるものだから覚悟を決めて目の前にあるティーカッブに口をつけて珈琲を飲み込む
いつもの劇薬のような味はせずに思わず目をパチクリとさせて目の前の妃古壱を見れば嬉しそうに微笑んでいた

「美味しいです」

「そうでしょう、私も珈琲を入れるのを最近ますます勉強しましたしなまえさんに提供するために特別なものばかり用意したんですよ」

「チョコレートの甘みもしっかりある中で珈琲の味も殺さずに調和されてて女の子ウケしそうですね」

「ふぅむ、2月の新商品に良いかもしれませんね」

経営の話に移動するのは当然だが今まで飲んだ中で1番まともで美味しいなとまた喉に流し込み、無くなってしまった珈琲が名残惜しく思えたほどだった

「私もオーナーの為に用意しましたので良ければコーヒーと一緒に楽しみませんか」

立ち上がり奥の冷蔵庫から4号弱のチョコフォンデュを持ってこれば嬉しそうに微笑んで席に着いた、ケーキを取り分けて今度は自分で珈琲を入れれば彼は楽しそうにフォークの上に乗ったチョコフォンデュを口に含む

「やはり私の選んだなまえさんだ、すごく美味しいですよ」

「…えぇまぁ妃古壱さんの為に作ってますから」

彼の髭についてしまったチョコレートを拭いてやりながらそう伝えれば優しく空いていた片手を取られ伝えられる

「私もあなたのために愛情を込めてますからね」

まるで珈琲の美味しさの意味を教えられたような気分でそんな甘さを自分が作ったケーキのせいにした。


妃古壱


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