23時が回れば執事喫茶百鬼夜行も人が居なくなる、最後にいたバイトの子に挨拶をしてオーナーに今日の売上のメールを入れておき冷蔵庫の中をみつつ明日のメニューを考えていればからんころんとベルの乾いた音が響く

「もう閉店ですよ」

「もう少し長く営業した方がいい」

「執事喫茶なんですから執事のいない時間に来ても意味ないのに」

「今日くらい良いだろう」

オーナーに瓜二つのような男がカウンターに座った、なまえは手馴れたように彼の前に一杯のコーヒーを出せばいつも通りそれを受け取って気品良く飲み始めた

「この間オーナーからコーヒー貰いましてこれがまた驚く事に美味しかったんですよ」

「お前もついに味覚がイカれたか可哀想に」

「失礼ですね、あんまりいいますとオーナー呼びますよ」

ドッペルゲンガーやら影武者やら好き勝手裏で呼ばれている彼のことだがどうもオーナーである、夜行妃古壱とは反りが合わないのか名前を出すだけで嫌そうな顔をするばかりだった
話しつつも用意をしていたナポリタンを出してやれば待っていたと言わんばかりにフォークで丁寧に救って彼の胃袋に消えていく、それをみつつ閉店後の作業を終えた彼女も同じナポリタンを胃の中に入れる、ちょうど一人休みが出たので賄いに使ってもバレないのだ。

「ご馳走様でした、金置いておくぞ」

「あ、丈一さんもう少し待ってくださいよ」

「何なんだ俺も暇じゃないんだぞ」

「遅れましたけどバレンタインなのでよければ」

「甘いものは苦手だ」

「コーヒーガナッシュにしてますから甘くないと思いますよ」

それでなくても週4程度で来てくれる彼の味の好みは理解しているつもりだった、あまりお菓子作りをしないがしてみたらそれなりに拘ってしまい綺麗なものを寄せ集めて詰め込んだ
手渡せば仕方ないと言いたげな表情で受け取った彼が背中を向けて出ていった、1人残されたなまえはお金をレジに直しながら帳簿を書き直す

後日百鬼夜行"なまえ"宛に大きな花束…というよりもフラワースタンドのようなものが送られてきて頭が真っ白になったが送り先を瞬時に理解したなまえは苦笑いを浮かべ、珍しく隣にいた妃古壱は顔色を変えて飛び出していった

「ふふ、相変わらず優しい人」

なんてメッセージカードを読みながら思った、たかだかバレンタインなのに浮かれてしまう自分に少し驚きながらこれを用意した彼の顔を思い出して。


丈一


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