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「はぁ?彼女が出来たからあんまりシフト入れねぇだと!?」

そう怒鳴り声をあげたのはキッチン担当でありこの店舗の店長であるサッチだった
悪ぃ悪ぃと反省の色もなくニヤニヤとニヤつく顔が抑えられないのはバイトのエースだった、バイト歴2年弱の割にはもう殆どバイトリーダーレベルには仕事のできる彼はこの店は居酒屋モビーディックの欠かせない存在だ
そんなエースが今年は土日とはいえあまり出られないかもしれないと言われればサッチも流石に怒り心頭かと思いきや、それよりも彼女が出来たことに対して怒っていたようだった
そして数分後散々文句をいったサッチは満足したのか小さく溜息をこぼしてポケットから2枚の紙を渡した

「仕方ねぇからこれやるよ」

「え、これって遊園地のチケットじゃねぇか!」

「おう、その分今日はしっかり働けよ」

キラキラと目を輝かせるエースに優しく笑ってやった、可愛い弟分に恋人が出来るのを喜ばずにはいられないのだ
相変わらず店は大繁盛だがエースのおかげかそこまでの忙しさも感じずに時間は過ぎた


「それでチケットもらったんだね」

そういって笑ったマリィの姿に胸が高鳴った
普段のブレザーの制服ではなくハイウエストの紺色のパンツに白のオフショルというシンプルながら女子らしい格好だった、見たことも無い肌色に思わず何度か目を向けてしまっては自身の雑念を払うように園内の地図を握る

「今更だけど苦手なものとかって」

「大丈夫だよ、エースくんが乗りたいやつについて行きたいな」

「じゃあさ、あのジェットコースターとかでもいいのかよ」

「あぁうん全然いいよ」

この遊園地で1番大きく1番怖いと噂のジェットコースターの列に並ぶ、最近できたばかりの"バギーランド"はサーカス風遊園地を売りにしておりアトラクションはどれも過激なものが多い
それ故に若者やらカップルが多くあちらこちらで絶叫が響いていた、長い待ち時間は普段の学校生活の時間を埋めるかのように話をしていればあっという間に過ぎていった
お昼ご飯代わりに園内のフードカートなどでホットドッグやら水水肉を買って食べることでさえ楽しくてたまらない

「ほら、慌てて食べるからついてるよ…んっ美味しいねこれ

そういってマリィの人差し指がエースの口元を触れたあとその指を舐めたものだから思わず目を丸くしてみつめてしまい、その後すぐに何をされたか気付いて慌ててマリィの手を取る

「そういうことまじでやめとけ!」

「どうして」

「どうしてってほら」

「意識させたかったからつい、だって手も繋いでくれないんだもん」

少し拗ねたようなマリィの顔にあぁ確かにずっと互いの手は宙をさ迷ってたな。と思い空いている片手で手を繋げば違うというように指を絡められて恋人だというように見上げた

「いや?」

「んなわけ」

男というものを、俺というものをマリィは何も分かっちゃいない、男は狼なんだからこういう事をしてたらいつか喰われても文句は言えないぞ。なんて胸の内だけで言っていればこちらをみたマリィが笑っていた
気付けばもう夕方でそろそろ帰るかと声をかければ最後に観覧車に乗ろうと言い出した、まぁいいかと列のない観覧車に乗り込んで向かい合わせに座り、今日は楽しかったなんて笑いあっていた

「ここからなら家も見えそうだな」

「どっちかわかる?」

「あっあー、向こう」

「真反対だよ」

東西南北なんざ分からないんだから仕方ないだろと言えばマリィはけたけた笑っていた、ゆっくりと1番上の観覧車は上がっていき夕日がマリィをキラキラと輝かせた
真っ直ぐ見つめていたら気恥ずかしく感じてしまい少し目を逸らした、あぁ海綺麗だな…と外を眺めていれば観覧車が傾いた

「え」

その声はマリィの唇に飲み込まれた
ちゅっと小さなリップ音を立ててマリィは向かいに座った、夕日に照らされた顔は少し赤く見えてお互いに沈黙が始まってしまう

「今日の初デート楽しかった、また来ようね」

そういって笑うマリィに「うん」と短く答えた
観覧車から降りて電車に乗り込む、隣に座る彼女が寄りかかって嬉しそうに手を握るものだからなんとも答えられずに最寄り駅まで結局到着した

「今度は映画かなにか行こうね」

なんて次のデートの口約束をしたマリィになんて返事をしたのか
というか俺本当にデートしたのか?夢なんじゃないのか?なんて思いながら家に帰ればルフィ1人だと聞き付けていたダダンが来ていた、夕飯もぼーっとしてたせいでルフィに全部食われるしダダンには熱だと心配されるし
スマホを覗けば「また観覧車乗りたいな」と一言だけメッセージが入っていてスマホを握る手が強くなった。