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汗がボトボトと流れ落ちていくタオルで拭ってもキリがない、外の気温は夕方になろうとしてるのに34℃で変わらず、人が密集していることと鉄板の暑さで体感温度は80℃くらいだ
やってる来るカップルに家族に子供を捌きに捌く、毎年モビーディックは海鮮焼きそばとイカ焼きの出店をしてるがこれが毎年大繁盛なもので店の売上に負けを取らないほどになるのだ
そんな大事な日である今日焼きそば担当として店長のサッチと2人での仕事になる、ちなみにイカ焼きは5号店のビスタとバイトのハルタだ(ビスタはイカの串刺しがめちゃくちゃ上手いらしい)、そして案の定手伝いでマルコも来ていた

「2人前お願いします」

「はー、っマリィ来てくれたのか」

「うん、はい千円置いとくよ」

「おう、ありがとうな」

「忙しそうだね」

「そうなんだよマリィちゃん!食材の仕込みやら作るのやらで客を捌くのがな」

「手伝いましょうか?」

おいサッチ分かってて言いやがったな…おもわず睨みつければ指を立てて笑った、いやまぁ確かに一緒に入れるのは嬉しいが違ぇよ普通は俺に休憩なり何なりしてくれるってのが気遣いだろ
浴衣で来ていたマリィは袖を輪ゴムで纏めてレジやら客対応に徹した、流石バイト経験者なだけあって人さばきがうまいものだった
その間にサッチが材料の仕込みやらドリンクの補充をしてくれ、俺は焼いてパックに盛り付けていく
長蛇の列はあっという間に消えていき残るは空っぽの屋台とガッツリと残された金だった

「サッチ材料は」

「今マルコに頼んで持ってきてもらってる」

「じゃあ暫く休憩か」

「よーし、2人とも頑張ってくれたからここからは俺とマルコで頑張るからデートしてこいっ、これマリィちゃんバイト代な」

「こんなに短時間で貰えませんよ!」

「いいんだって、あとエースはこれやる」

「はぁなんだ……ッッありがと!!よーしマリィいくぞ!」

「ちょっとちょっと、サッチさんいつも本当すみません」

金も貰ってやることも終わったら言葉に甘えてとっとと上がるに越したことはない、マリィの細い手首を掴んで走るように会場を巡る、途中ビスタとハルタにデートをしてるのがバレて小言を言われたが無視だ
適当に食料を大量に買い集めて山を登る

「あのエースくん足痛いからちょっと待って」

「もうちょっとだから」

「分かってるんだけどね」

ゆっくり登ってくるマリィに合わせてやって、頂上まで辿り着いて静かに2人で腰をかける、隣に座るマリィがカバンから絆創膏を取り出して足の親指と人差し指の間に貼るのをみれば思ったよりも皮が剥けて血が溢れていた

「なんだよこれ先に行ってくれりゃ」

「いったもん」

「グッ…すみませんでした」

「帰りはおぶってくれたらいいよ」

「任せとけ」

ポケットに入れていたスマホを見ようとした途端だった空に向かって何かが音を立てて飛んでいき、そして弾けた
満天の星空に広がる花火に2人で目を奪われ丸くした、次々と打ち上がる花火はここらじゃ有名なものでこの山は昔から来てたが普通の人が来るような場所じゃなくて穴場だ、どうせルフィたちも友達と下で屋台を楽しみながら見てるだろう。
横を見ればマリィの顔は花火の灯りに照らされた、今更ながら改めてみた薄い紫のレースの浴衣は上品で綺麗だった、結われた髪は簪で纏められて白いうなじが欲を唆る

「マリィ」

名前を呼べば振り返るその顔にもう何回目かのキスをした
柔らかくて甘くて気持ちよくてもっと、もっとしたくなる、ほしくなる
床に置いていた手を重ねていれば恐る恐る指が絡められて、少しだけ…なんて舌を伸ばせば静かに受け入れられる
キスの味は焼きそばとラムネの味だった、小さなマリィの舌が愛しくて花火のことなんて忘れてキスをした

「え、すくん」

マリィの声は花火の音と一緒に消える
これ以上を進みたいと思って胸元に手を置こうとすれば簡単に抓られてしまい思わず痛みに顔を歪めて目の前の彼女の顔を見れば少し不貞腐れた顔をしていた
あっ調子に乗りすぎたと気付いて謝ろうとする前に

「気崩れたら直すの大変だからだめ」

というものだから、それじゃあ直せたらいいのかよ…なんて顔が多分思いっきり出てたんだろうな
結局2人で座り直して花火を見上げる、マリィの頭が肩に寄せられて「綺麗だね」という度にお前が1番綺麗だよなんて歯の浮く台詞が頭に浮かんでは消える
花より団子っていえばいいのかな、俺は買いまくっていた焼きそばやイカ焼きやたこ焼きを全部食べきった
隣のマリィは小さな口でりんご飴を齧っている、その姿もまた綺麗でなんかその辺のモデルとかアイドルなんか凡人なんじゃないかと思うほど甘い考えをしていた

最後の大きな花火が打ち上がって空は埋め尽くされた
流石にそれには目を奪われて口を開けて見上げ、それから数分後立ち上がり帰る用意をして下山しようとすればマリィは立ち上がらずに座っていた、帰らねぇのかな…とみつめたら

「おぶってくれないの?」

なんて小さく笑って言った
背中に感じる熱と重みと柔らかさと匂いにこの心音がバレないかとドキドキした、マリィが話をする度耳元や首元に息が吹きかかって男子高校生には刺激が強すぎる

「来年も2人でこうしてみようね」

「またあそこ登ることになるぞ」

「…そしたらまた、おんぶしてくれる?」

「うん、いくらでもするよ」

そういえば回された腕が一段と強くなる
来年も再来年もこれからずっと2人で花火を見たい、来年はまぁバイトは出ないようにしよう。