小さくて寂しい

1年間をこれ程楽しみに待っていたのは中学生ぶりだった、新一年になる子が楽しみで夜はあまり眠れなかった

「俊平おはよう」

そう言いながら隣に立った女子に目を向けた
平均的な女子よりもだいぶ小さく感じるのは自分の身長のせいである事は十分承知だが、1番小さいサイズで頼んだであろうブレザーは袖がまだ少し長く指先がチラリと見えるだけ

「か〜わいいなぁ花音」

「も、もうやめてよ俊平私もう小さい子じゃないんだから」

「昔はこうしてやったら喜んでたのになぁ」

妹のような娘のような、孫可愛がりしてしまう程で鬱陶しがられた
自然と出された真田の手を小さく握る、181cmと並ぶ142cmはまるで子供と大人のような身長差で体格差も当然出た
コンプレックスだというその身長を真田は可愛くて仕方なかった、小さいといえば頬を膨らませる姿もトコトコとまるでヒヨコが歩く様な姿もまるで小動物のように思えてしまう、それを言えば花音は嬉しくなさそうな顔をするのももう慣れてしまった

「今日お母さん遅いから俊平の所で食べていい?」

「ウチも親遅いし俺の手料理でいいか」

「うん、あのアレ食べたい」

「ハイよ」

アレと言ったのは花音の大好物のオムライスだった
子供らしいその選択も全てが可愛くて仕方が無い
学校生活が1.2ヶ月経てば慣れてきたのか一人で校内を歩くようになった、更にいえば野球部のマネージャーにもなってくれたおかげで汚すぎた部室もマシになった
花のなかった学校生活に色がついたおかげかやる気も十分に出た

「雷市くんバナナの皮ちゃんと捨てなきゃでしょ」

「あ、それ俺」

「俊平なら尚更でしょ、先輩なんだからもう!」

部が和気藹々とするのは雷市や花音のお陰だと思っている、少し前までやる気など0だった自分たちに火をつけた轟親子に尻を叩いてくれる花音
みんなのリーダー的ポジションの真田がいれば薬師はそれだけで毎日笑い合いながらも頑張り続けられた
高校生になると女子の変化が現れる、クラスの女子もそうだ
好きな人が出来たやら、最近出来たコスメ用品店に行きたいやら、デートするならディズニーやら

「真田先輩、私と付き合ってください」

今時、校舎裏でラブレターを渡して告白してくる奴なんて居るんだ…なんて思った
一つ年下の1年生の後輩はそれなりに顔もスタイルも悪くなかった、モテる男は辛いが答えは決まりきっていた
というよりも告白受ける気もサラサラない

「ごめん俺1年の花音って子が好きだから」

それじゃあ、と言って背中を向けて歩き出せば後ろから衝撃が走る、重みと柔らかさに気づくが抱きしめられる、思った以上に豊満だったらしい柔らかい部分に思考が奪われ掛けた

「居てもいいんです!遊びでいいので付き合ってください」

遊びって何歳だよ。なんて冷静に思って乾いた笑いが出た

「あのな、優しく言ってんだから諦めてくんねぇかな…俺好きな人いるしお前のこと知らねぇってマジ」

昔からそうだ、顔の良さもスタイルの良さも知らないわけない
女はキャーキャー持て囃すものだから最初はいい気分だった、ホントの最初だ
けれどある日見てしまった、教室で休み時間告白された姿を見ていた花音の顔はあまりにも悲しい顔をして隠れてしまった事を、二度とあんな顔をさせたくないと思った
好きな子に好きと言えていないのは事実だが、それでも自分は他に言い寄られても決してそこに靡く事は許さないで居た
泣きながら帰っていった後輩を見てため息をついた

「…俊平?」

「花音聞いてたのかよ」

「……ちょっと、ごめんね部活の事だったんだけど」

至極申し訳なさそうな顔をした花音はまるで叱られた犬みたいな顔をするものだから溜め息が出そうになる
お互い毎度告白をされる場面を見ると知らないフリは出来ないゆえに気まずい

「監督が今日会議で来れないから自主練しとけって、それだけなんだけどごめんね、教室いなかったし」

言い訳のように並べ立てる花音に安心する、自分の見る目を変えない
腕を取って抱きしめる、胸の中に顔を埋める花音は少ししたら肩が震えていた、ちいさくしゃっくりをあげる
何も言えない、花音は泣いているから
告白をされる度に離れていかないでと言うように花音は泣き始めることを止め方がわからない自分は何も出来ずに頭を撫でて抱きしめ

「ごめんな」

という他ないのだ
これが自分たちの告白でもなんでもない、幼馴染として関係が壊れるのが怖くて仕方ない故にこんな酷い行為をする
そんなこと分かっていながらも言い訳も並べられずに胸のなかで泣き止んだ花音を強く抱きしめ直す

「ずっと一緒がいいな」

そう小さく聞こえた声に俺もだよ。とは口が裂けても言えずにいた