家族になろうよ


「創一様がご結婚ですか…それは大変喜ばしいお話でございますね」

「そこで仙狸是非創一の買い物に付き合ってくれ」

「それは構いませんが私しばらくお休みがございませんので」

「有給使ってないって将輝がいってたな」

善は急げと言う為か背中を押されて重たい溜息をこぼして目の前の重たいドアをノックする、静かにどうぞと奥から聞こえてドアを開けばいつも通りソファーで本を読む自身の主をみた

「撻器様からの指示で本日は創一様のお買い物に御付き合いと」

「あ、忘れてたそうそう買い物行きたかったんだ」

「私も用意してまいりますが何時頃行かれますか?」

「すぐ行きたいな」

「畏まりました、ではまた参りますのでお待ち下さい」

「うん、分かった」

仙狸は必要事項を告げてドアを閉めようとした時だった、本を置いた主人が目の前に立っており、困惑した表情で見ていれば「もう用意できてるからそっちまで行くよ」と告げられる、ここで断ったとしても彼は納得はせずに引くことは無いことを10年以上の付き合いのメイドである仙狸は分かっていた、それ故に「賢りました…ですが、着替え中は御遠慮くださいませ」と告げて5分ほど廊下に彼を置いて着替えたあとは直ぐにどうぞ…と部屋の中に案内をする
異性で、主人である彼を部屋に招くのももう終わりかもしれないと思えば寂しくもあった

「その服ならこの間のピアスが似合うよ」

ふと小物に悩む仙狸に声をかけて隣にやってきた創一の指が2つのピアスを手に取って渡す、そしてネックレスを手に取り仙狸の有無も言わさずに付けた
この部屋の中も衣類も半分以上が創一からの贈り物であり、必然的に身に纏うものは彼からの物であった

「そんなに見られては口紅がズレてしまいます」

「うん、でもほら綺麗だから」

「恐縮です創一様も相変わらず素敵ですよ」

「仙狸から貰ったタイピン似合ってる?」

「えぇ素敵です、ベストの色も普段と違って随分と落ち着いて美しく見えますね」

素直にそう伝えれば満更でもなさそうな彼は昔から変わらない少年のように見えてしまうのは長い付き合いからだろう、主従でありながらも母のように姉のように接してきた中で朝に伝えられた"結婚"という2つの単語が近くなる年齢になったのかと思えば感慨深いものだった

「さ、行こうか…仙狸さん手は」

「もう子供じゃないですよ」

「でも僕は繋いでいたいんだけど」

「仕方ありませんね」

彼の少年のような我儘が自分達だけならば構わなかった
結婚に対して悪い感情は抱いておらず反対にようやく彼も1人の男性として自立するのかとも思えるほどである
手を繋ぎエスコートされて車の助手先に乗る、高級車の感覚も随分慣れたもので隣の創一の運転姿も見慣れた程である

「仙狸さん行きたいところある?」

「私は特にありませんよ、創一様の行きたいところで」

ふと赤信号で止まれば運転席からじとりと睨む彼の顔に思わず「あっ」と声を漏らした後に少し咳払いをする

「創一…さんですね、失礼しました」

「いいよ、気をつけてね」

外にいる時彼が様付けを毛嫌いのは他人の目もあるからだろう、公私混同はせずに仕事のON.OFFがはっきりしている故に分かりやすく対応しやすいものだった
駐車場に手馴れたように停めた創一の手を取り歩き始める、いかにも高級店ばかりの銀座の街に手を引かれて歩きながら時折これが良さそうだと話す彼に頷きながらも慣れない街並みに頭がいっぱいになってしまう

「ここは」

「指輪を見ようかなって思って、ダメだった?」

「いえ、私で宜しいでしょうか」

「仙狸さんだから連れてきてるんだけど」

その言葉にあぁまだ相手の方に指輪を渡しておらず女性として連れてこられたのだと理解する、有名ブランド達の指輪を次々と見ながらこれがいいあれがいいと指輪を付けられたり外されたりと繰り返す、自分のものは気にしないのか試しては違うなと言いながらふと創一が仙狸をみた

「婚約指輪もやっぱり必要かな」

「そうですね、結婚指輪より婚約指輪を豪勢にする方も多いですし」

「ふぅん…こういうの?」

「すごい大きなダイヤモンドですね」

「仙狸さんの指からはみ出てるもんね」

2人でまるで恋人のように会話をしながら選ぶもこれを付ける女性はきっと嬉しくて涙を流すのだろうと思いながら店員と話をしつつ指輪を選んでいく
本当に何も用意をしていなかったらしい創一の言葉に一から指輪の用意やプロポーズについての話をした

「最後に行きたい所がまだあるんだけど」

「えぇ構いませんよ」

その頃にはスッカリと陽は落ちてしまい銀座は綺麗な街灯に照らされている、この街の街頭は女性を美しく見せるのだという話を思い出しながら確かにこんなところに相手を連れてきたら喜ぶだろうと思いながらも付き添った先はブライダル専門店だった
見るからに高級そうなその店の前で思わず足を止めてしまうも彼は気にせず手を引いていく

「鉢名ですが」

名前を名乗り案内をされた先には白いドレスたちが並べられていた事に仙狸は足を止める

「創一さん流石にこれは私ではいけません」

「どうして、別にいいでしょ」

「ですが流石に申し訳がたちませんし」

「仙狸さんだから連れてきたんだよ」

あまりに慌てる仙狸の事など気にせず創一は静かに椅子に座りどれがいいかな。と呟いた手元のカタログも目の前のドレス達もキラキラと輝いていた、あれよそれよと言われる間に彼の指示に従ったスタッフたちの手によりドレスを着たり小物を付けたりとした

「…すごく綺麗だね」

「えぇ私もそう思います、人生で1度は夢見るドレスですからね」

「仙狸さんも?」

「それは勿論、創一さんと結婚出来る女性はきっと幸せですよ」

「うん、僕も幸せだよ」

優しく笑う彼の顔に仙狸は思わず胸が痛くなる、彼の見えない試着室の奥で小さく涙が零れた、この感情は愛情であることは理解しており親のように姉弟のように、そしてそれ以上に仙狸は創一を想った
結婚をすると知った時ショックはあったが安心感もあった、彼も家庭を持ち子を持ち大人になるのだと思えたから、新しいドレスに身を包み見せる度に彼は満足そうに笑ってどれがいいかな?と言う

「これが素敵です」

長袖タイプでトレーンが長いタイプのものだった、それに合わせたティアラや靴を準備されていく
1番いいと思ったデザインが似合うかはわからなかったがそれで満足したらしい創一はスタッフと話をして、服を着替え疲れた仙狸は渡されたアイスティーを飲むことで精一杯だった、創一の傍に置かれていた複数の袋や箱はこれから知らない人の手に渡るのだと思えば胸が痛むばかりで、気付いた時には話が終わってたらしく「おまたせ、行こうか」と言われ手を繋いで出ていき車に乗る

「今日はありがとうございます、素敵な体験をしました」

「そう?これくらいならまたさせてあげるのに」

「滅多にないから素敵なんですよ」

「ねぇ…まだ帰らなくていいなら、本当に最後に寄りたいところがあるんだけど」

二つ返事で了承すれば車を30分ほど走らせる、東京の離れた景色の見せる場所にこれば夜景がまるで宝石店のように輝き仙狸はその光景に目を奪われる
人のいないその絶景を見ようと外に出て低い塀のたっている近くまで仙狸は寄れば創一も隣に立ち低い声が響く

「仙狸さんを連れてきたかった」

その言葉に仙狸はあぁこれが最後のお出かけだったのだと思い出す、彼が結婚すれば完全にメイドと主として戻るのだ今のように彼の笑顔も滅多に見ずに仕事をするだけの日々を変わらず送るのだと

「私もこられて良かったです」

「また連れてきたいんだけど」

「それは相手の方に失礼ですよ創一さん」

「相手って?」

「結婚をされる方ですよ」

仙狸の言葉に目を丸くした後に顔を背けられ、当然の反応だった夢のようなデートは終わりもう魔法は終わるのだと仙狸は思いながら塀を掴んでた手が力を込めた

「仙狸さん」

「はい、どうしま…し」

「僕の奥さんになって欲しいんだ、ずっとメイドとしてじゃなくて妻として貴方が欲しい」

「えっ、じゃあ結婚相手の方はどうするんです」

「?仙狸さんしか居ないけど」

呼ばれたと同時に振り返れば買ったばかりの婚約指輪を見せられてプロポーズをされたものだから仙狸は困惑してしまう、頭をぐるぐると回して確かに誰も結婚相手がいるとは言わず更には紹介もされなかったのはおかしいとは思ったものの展開についていけずにぐるぐると回る視界で創一を見つめれば、彼の大きな手が仙狸の手に重ねられる

「いいのなら、仙狸さんの指にこれを飾りたい」

「はい、私も創一さんにしていただきたいです」

「プロポーズ受けて貰えたってことでいい?」

その言葉に小さく頷けば創一の大きな体に包みこまれ自然と唇を重ねられるたと同時に大きくドドンと花火が鳴り響き拍手が響く

「いやぁおめでとう創一」

「父さん、ありがとう」

「おめでとうございますお屋形様」

季節外れの花火と共に静かな茂みの方から次々と人が現れ拍手をすることについていけず目を丸くする

「結婚式楽しみだね」

そう告げた自身の主…もとい御主人になる相手は幸せそうに笑った、あぁなんて顔で笑うようになったんだろう。なんて思いながらも繋がれた手をぎゅっと繋ぎ治して返事した

「はい、私も楽しみです」