うれしい!たのしい!大好き!



初めて出会った彼女は大学の友人がセッティングした合コンだった、人が足りないし看護師やCAばかりだしいいだろうなどと言う友人に断るも頼み込まれれば結局参加する羽目になってしまった
特に興味もなく自己紹介をして、皆で会話をして盛り上がる中で端っこの方で困ったような顔でビールをちびちびと飲んでいる女性がいた

「ビールは苦手ですか」

「えっ、あ…好きなんですけど緊張したら飲めないって言うか」

「ご友人に誘われて?」

「えぇ奥のあの子が高校時代の友達で誘われたんですけど私人見知りとかしちゃうんで駄目なんです」

だから隅っこでちびちびと飲んでいるのがいいんです、と眉を下げて笑った彼女に恋をしたのはその時からなのだろう、看護師を初めて5年だというふと話してみれば意外と自然に話をすることが出来、皆が自然と席を移動する中で額人も彼女の隣に座った

「そう言えば私大船さんに挨拶個人的に出来てませんでしたよね、棺仙狸と言います宜しくお願い致します」

「すまない、あまりこういう場になれてなくて人の名前を覚えるのもギリギリだったんだ」

「いいえ、ビールもう一杯頼みましょうか?」

「あぁついでにほかも頼もう、皆何かいるか」

2人でメニュー見つめて声をかければ各自飲み物やら食事やらの声が飛んでくる、騒がしい声に混ざり覚えることが全く出来なかったがやってきた店員に丁寧にオーダーをする仙狸に見惚れていれば「高校の頃ずっと居酒屋でバイトしてたんです」と言われ納得する反面、真面目そうな彼女に尚のこと好感を抱いた
仕事の話や普段している事など話をしていればあっという間に時間はすぎていき二次会をどうするかと話をしていたが2人ともそのほかのメンバーと話していなかった故に先にお開きとした

「よければ送っていきたいんだが」

「私○○の方です」

「よかった一緒だ、最寄りは」

「〜です、大船さんは」

「その2つ奥の駅だから良ければ家まで送ろう、こんな時間だしちょうど酔い醒ましに歩きたかった」

取って付けたような言い訳混じりのことを言いつつも彼女はお言葉に甘えます。と返事をしてくれたお陰でまだ離れずに済んだ
20分のほどの電車の中の時間や家までの歩く時間も初対面故に沈黙もなく話が程よく進んだ

「送ってくれてありがとうございます」

「いやいいんだ」

「あのその良ければ」

「待ってくれそこからは俺から言いたい…良かったらまた会ってくれるだろうか」

高鳴る心臓にあぁ恋をしているということは子供でもなく恋愛経験のない青年でもないただの男故緊張をしていた
10秒ほど彼女は黙ったあと

「私もまたすぐに会いたいです」

返事が出た瞬間にその小さく甘い匂いのする体を抱きしめてやりたいと思ったのだ、連絡先を交換して休みが合えば出かけるようになった
付き合うまでの時間はさほど掛からず彼女は自然と受け入れ互いに理解し時間を共にした、キスをして抱きしめてそれ以上も何度もしてその度に彼女の身体が小さく細く華奢で壊れそうで柔らかく白いと実感する

「ただいま」

「おかえりなさい額人さん」

「ん、いい匂いだな」

「ムニエルにしてみました」

「もうペコペコだ」

「じゃあ早く手洗ってきてくださいね、用意しておきますから」

翌日が休みの日は家に来て夕飯や家の掃除をして待っててくれる、同棲はできては無いがよくできた彼女で一人暮らしも長いためか自炊も得意らしく胃袋さえ簡単に掴まれてしまったほどだ
何もかもが完璧だと思い夕飯を共にしながら顔を見つめる、お茶碗を持った彼女の左手には何もついておらずそれに対しては何も言われない
互いに付き合って3年弱、それなりに平和に交際を続け仕事に対しても勿論互いに対しても文句は無いほどだったプライベートも仕事もしっかり分けられ互いの苦労も理解しているからだろう

「お義母さんが額人さん最近忙しそうだって心配してました」

「あーそうだな、最近連絡入れてなかったら仙狸の方に連絡したのかすまないな」

「いいんですよ、お義母さんとお話するの楽しいですから」

「変なこと言われなかったか?」

「えっ…はい、大丈夫です」

嘘をついたと分かったのが彼女は困った時や嘘をつく時髪の毛を指先に巻くからだ、だがしかしそこに対しては何も言わず「ならよかった」と告げて夕飯を共にする、片付けはしておくからお風呂に入りなさいと告げれば素直に少し前にお揃いで買った猫柄の薄手のパジャマを片手に行ってしまったのを見て即座に携帯を取り出す、電話帳の上の方ある母の名前をタップすれば電話モードに変わる

「母さんすまない…あぁ元気だよ仙狸にも電話してくれたんだろう、分かってるそれで仙狸に何言ったんだ」

即座に本題に移れば受話器越しに聞こえる母の電子音の声が告げた

『何ってそろそろ結婚しないの?って聞いたのよ』

いい加減籍入れてあげなきゃ仙狸ちゃんの事どうするの、と母の言葉に思わず固まったあと適当に返事をして電話を切る
そしてまだ洗い終わってない洗い物もそのままで考えた、確かに互いにもう数年間の交際をした上で進んでいない現状に対して誰かがそれを告げてもおかしくないだろう、仙狸も額人もそれは理解しているはずだった
だがしかしタイミングであったり、互いの私生活を考えれば籍を入れ互いに生活をすぐに…とはなかなか出来ないのも当然の事だった

「あがりましたって額人さんどうしました?洗い物しときますからお風呂入っていいんですよ」

「いや洗い物はするよ」

「そうですか」

仙狸の言葉もあまり身に入らず洗い物用のゴム手袋をつけて洗っていくが、キッチンに広がるのはガシャーンパリーンといった割れ物の音で慌てて仙狸に背中を押されて風呂に入れられる
結婚・結婚・プロポーズ・結婚式・婚約・子供・結婚
風呂の中でブツブツと呟きながら額人の頭は混乱していた、きっと彼女のウェディングドレス姿は誰よりも綺麗だし可愛らしい、子供が出来たら男なら野球をさせたい女の子ならきっと可愛くて彼氏なんて許せない…色々考えすぎたせいだろう目の前の視界が揺らいでいく

「額人さん!」

遠くで聞こえた名前を呼ばれる声を最後に意識を手放した
ふと目を覚ました時にはベッドの横に座る仙狸は泣きそうな顔で見つめていた、額や首元には熱冷ましシートが貼られて水やゼリーや果物が大量に置いていた

「1時間以上も入ってるから珍しいなって覗いたんですけどお風呂場で倒れてるから驚きました」

「え、あぁすまない考え事をしていて」

「お仕事のことですか?そんなに考えるなら他の人とかと相談した方が」

あまりに心配そうにする彼女に額人は思わず口を滑らせた

「いや君のことで」

「え」

「あ違っ、違わないんだが違ってそのだな」

「私の事って別れたいとかそういう」

話の着弾点がわからずに予想して言う仙狸は困惑した様子でそこまで自分が彼を悩ませる原因になっていたとは思わずに混乱した、起きたばかりの頭では直ぐにまとめることが出来ずに額人は兎に角頭を冷静にするために近くのペットボトルの水を全部飲み干してゼリー飲料も飲みきってから少し冴えた頭で眉を下げる仙狸の手を取った

「君と結婚することについてだ」

「けっこん…ですか」

「あっちが、そのえーっと」

「本当にですか?」

凛とした仙狸の声にふと顔を見ようとしたが彼女は真下を向いてぎゅっと手を握っていた、困らせてしまったと思いつつも本音である故に否定は出来ずに「あぁ」と零した

「大船って名乗るんですよ」

「嫌だろうか」

「そんな事ないです、そのために悩んで倒れたんですか」

「あぁそうだ恥ずかしいが、君にこんなプロポーズするつもりじゃなかったが」

「こんなって例えばどんなプロポーズする気でしたか」

「そっそうだな夜景の見せる場所で言ったりとかだろうか」

何となくプロポーズと言えば夜景が見える場所で跪いて言うものだと思えてしまうのは幼い頃に見たドラマのせいなのかもしれない、肩を震わせる仙狸に額人はなんと声をかけていいのかわからずに難しい顔をして見つめた

「ふふ、ガクトさんってやっぱりロマンチックですよね」

「GACKTは止めてくれ照れるだろ」

そう言えば初めて交際を申し込んだ際に花束と共に「付き合ってください」と告げれば今のように笑って「ロマンチストなんですね」と言っていたことを思い出す
不器用だと自分ながらに思っている故に彼女の言葉に逆上せたばかりのせいか体が熱くなる

「それであの、もう一度プロポーズ聞いてもいいですか」

お願いします。と言われ額人はしっかりとベッドに座り直して隣に座る仙狸の手を取って目を見つめる
お互いの鼓動が聞こえそうだと思いながら熱くなる手をぎゅっと握り伝える

「仙狸さん、どうか私と結婚してください」

「はい喜んで」

ニコリと笑う彼女にあぁやはり俺は彼女に惚れてるなと思いながら強く抱き締めた、小さくて柔らかくて甘い匂いのする彼女に好きだと伝えながら