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常夏の島ハワイに来ていた、恋人である貘に連れられて、特に仕事(ギャンブル)の為などではなく
「ねぇ新婚旅行しよう」
突然言い出した彼の言葉に困惑しつつ頷けば気付かぬうちに飛行機の中だった、日本とは違うカラッとした暑さに少し汗を流しながら一緒に来てくれた梶やマルコとは別行動で新婚旅行(仮)を楽しもうと言われるがまま
「新婚旅行ってそういえばどういう事?」
「丁度さ結婚したいなぁって思って、仙狸ちゃんOKくれるから新婚旅行も先に済ませようかなって」
「OKしなかったらどうするの」
「するの?」
太陽の下で見つめられると彼のアイスブルーのような薄い瞳は更に輝いて透明感を出した、その言葉には首を振って結局はこの人の手のひらの上で遊ばれているだけだと分かりながら2人してバカなカップルのようにハワイを堪能する
お土産屋さんで見かけたアロハシャツを浮かれながら買って、バカみたいに大きなサングラスをかける、元から日差しにはあまり強くない貘とは室内ばかりで何かを買ったり食べたりがメインで海などには入れなかった
途中にあったカメハメハ大王の銅像と写真を撮ったりしながら笑う
「結婚したら私斑目になるの?」
「さぁ、別に俺がそっちの苗字貰ってもいいよ」
「棺貘かぁしっくり来ないな、斑目だから貘って名前が似合ってるのかも」
「そうかな、それならどっちもそうでしょ…でも斑目仙狸って気持ちいい響きだし、仙狸ちゃんは斑目のがいいかもね」
2人で昼食にハワイで有名なレストランのガーリックシュリンプを食べながらビールを飲む、海外は未経験の仙狸にとっては一つ一つが大きく感じてしまい2人して1杯で満足してしまうほどのビールに2人で動けないと文句を吐いた
「今頃2人は海かな、気持ちよさそうだよねあんな天気いいんだもん」
「そーだね、海行きたかった?」
「貘くんのお肌私より弱いからいいよ、本当に行きたいなら室内プールとかもあるし」
「優しいなぁ仙狸ちゃん、そういうところすごく好きだよ」
「私も大好きだよ」
結婚なんてものは単なる儀式であり枷だと理解している、だとしてもそれを求められるのならばよろこんでその枷に繋がれようと思えたのはこの人だからだと仙狸は思えた
重たい腰を上げてさぁ買い物しようと笑顔で誘われればその手を取って2人でコスメやアクセや服を選ぶ、2人して子供みたいにはしゃいでしまいながらも本来の目的は忘れなかった
夜になり、2人だけの世界の海が心地よかった
「ちょっと冷たいね」
「うん、あんまり奥行ったら溺れちゃうよ」
「私結構泳げるし大丈夫、貘くんは来ない?」
「俺苦手だからなぁ水」
そんなことを言うものだから仙狸は海から上がって貘の手を引いて海に連れていった
先程気付けば夜になって夕飯のピザを軽く食べながら「夜なら海行けるよ」と言われて喜んだ仙狸は即座に水着を買いに走った、無邪気で天真爛漫な少女のような仙狸が愛おしいと貘は思いながら繋いだ手をギュッと握った、そして誰もいないような広すぎる海に二人で来て遊んでいたのが今だった
昼と違い夜の海は静かであり、人も少なく仙狸のことを月明かりが照らす、仙狸を抱き上げて濡れた服の気持ち悪さなど忘れてキスをする頬にも瞼にも鼻にも額にもキスを落として唇を重ねる
「ねぇ貘くん…大好きだよ」
「俺も同じ気持ちだから大丈夫だよ」
彼女の頬が濡れているのは海水のせいか、涙のせいか舐めてみてもどちらも塩っぱくて分からなかった
濡れた体で歩いてホテルに帰りシャワーを浴び熱い恋人同士はシーツの中で暴れた、それはもういつもより激しく強く打ち込み動かし声を出し汗を流し
「愛してるよ」
掠れた彼の声がそういう度にやはり結婚という行為に心が満たされてしまい涙が零れる、その度に彼の白い指先が涙を拭って抱きしめられる、大切なものを守るようにしっかりと
気付かぬうちに寝てしまっておりふと目を開ければ隣には裸の旦那がいた、旦那といえばいいのか恋人といえばいいのかあやふやなラインに居るのはまだ婚姻届も出していないからだろう
ふと左手を伸ばして彼の柔らかい髪を撫でようとした時だった、昨日までついていなかった左手の薬指にある指輪に思わず目を奪われる
「気に入ってくれた?」
今度聞こえた声は掠れた眠気の交じった声、シンプルなシルバーにジュエリーが散りばめられており安くないことを簡単に物語る代物だった
ふとシーツの中から現れた貘の白い指先にも似たような細身のリングが付けられておりあぁこれが互いの枷であり、結婚というものなのだと仙狸は認識した、ふと起き上がった貘が手を取り用意をし始める
「どこ行くの」
「ここのホテル上に結婚式場あるんだ、いってみよう」
勝手に使用していいの?とか、結婚式場があるんだ素敵だね、なんて返事も出来ず彼の瞳に囚われたまま縦に頷いて着替えて着いていく、白いドアの前で止まった貘に仙狸は不安そうに見つめてもどうぞと言われるばかりで少し緊張気味にドアを開く
「うわぁっ」
思わず溢れた声はまるで子供のような反応だと我ながら思う、だがしかしその光景を見れば誰だって同じだろう、白を基調とした式場の奥に見えるのは広がる青い海、花の香りがふわりと仙狸を刺激して少しだけ花弁が散っていく
海の見える奥まで走るように行った仙狸はふと付いてこなかった貘を見れば後ろにはマルコも梶もいた
「ちゃんとした式が出来なくてごめんね、でも俺たちみんなで祝えたらいいなって思ってたんだ」
「別に式も、結婚もいらないよ、私が貘くんの隣にいれるなら」
「仙狸ならそう言うと思ったけど俺も好きな人とは一緒になりたいから」
ほらこっち来てと言われて祭壇の前に呼ばれて足を向ける、嬉しそうに微笑むマルコにベールを被せられ薄いベール越しに貘の姿が見える、仙狸自身はラフな私服であることに反して貘もいつもの白いスーツだったがよく似合っていて自分もめかした方がよかったと後悔をする
そして二人の横に立っていた梶が咳払いをする
「え、えーっと病める時も健やかなる時も新郎斑目貘は新婦仙狸を愛しますか」
「勿論」
「新婦仙狸は新郎斑目貘を愛しますか」
「は、はい!」
聖書のない梶の言葉に仙狸は緊張のあまり思ったより出てしまった大きな声に恥ずかしいと思いつつも目の前の視界がクリアになりベールを上げられたのだと気付き、そこでようやく貘の表情を捉えた
今までの人生で彼の顔を何度も見てきたがその中でも特別な表情だった、穏やかで優しく幸せそうな泣きそうか表情であった
「では誓いのキスを」
そう言われれば顔が近付いて腰に腕が回される
「一生大切にするから、俺を愛してくれてありがとう」
小さく囁かれた言葉に仙狸は涙が零れた、クラッカーのなる音も横にいてくれた家族のような2人も涙を流してくれた事さえ幸せが溢れかえる
好きだと言うセリフも愛しているという言葉も出て来ずにただ抱き締めて彼が自分を愛してくれているのだと感じ続けながら4人で笑って泣いた結婚式が終わったその夜のホテルでまた熱く繋がった
「どうしてここで結婚式したの?」
「誰も俺たちを知らないし、誰にも邪魔されないし、テレビで見て羨ましそうな顔してたから」
その言葉にあぁ確かに数日前テレビで見た結婚式特集で映っていたハワイの式場が綺麗だと独り言を呟いたのを思い出した
「丁度結婚してもいいかなって思って、どうだったもしちゃんとした式がいいなら用意するし」
「いらない、これが1番幸せだから貘くんと皆がしてくれた式だから1番いいの」
例えそれがゴミ処理場でも墓場でもきっと同じ言葉を告げられる仙狸はその想いと共に伝えれば大袈裟だよ、と言いながらも満更でもない貘は仙狸を抱きしめて嬉しそうに微笑みながら言う
「次は2人で新婚旅行に来ようね」