乾杯
水曜日の夜21時、居酒屋は程々に騒がしく仙狸は天井付近にあるテレビを見ていれば速報で有名グラビアアイドルの○○が俳優△△と結婚!!と大きく流れた、それを見つめていれば頭にタオルを巻いた高校生程の男の子がビールをテーブルに置いた
「なんやワシあのグラドル好きやったのに」
「可愛いですよね、おしりがいい」
「いや胸やろ」
「おっぱいよりお尻やわ男なのに分からないんですか」
性癖暴露を互いにするように話をしながら目の前の男が枝豆の殻を放り投げたが皿に着地することはなくテーブルの上に汚く落ちた、げえぇっと言いたそうな顔で仙狸はそれを持って皿に戻す
「ほんま門倉さん最低やわ」
「お前の関西弁にムカつくな」
「広島弁もムカつきます」
「おー知っとる」
軽口を叩くがお互いに本気に思っているわけが無い、仙狸はようやく来たホッケの開きをつつきながらグラドルの結婚を思い出す、時期が関係あるのか有名人の結婚や友人の結婚などが重なりやすい時期で重たくのしかかった仙狸は未だに目の前の男友達と独身同士仲良く居酒屋ご飯をしているのだから
「結婚ええよねぇ」
「するか」
「はい?」
「結婚や」
「誰が」
「ワシとお前じゃ」
あまりに自然と出た彼の言葉にビールはまだ3杯目だが酔うなんて早いなと仙狸は思いつつ門倉の言葉を受け流してホッケの身にすだちをかけて箸でつついて口に含んだ、ふんわりと広がる柑橘の味と焼き魚の味時々感じる焦げの苦ささえも愛おしいなどと思えてしまうほどこの店のホッケを愛していた
「無視するなや仙狸チャン」
「こっわ目の前に鬼がおりますわ…冗談ですけど、まぁ本音はそう言う冗談は流すのが1番かと思いまして」
「本気じゃ言うたら?」
「いやそもそも彼氏でもない人と結婚ってどうなんですかね」
「そういうんなら付き合ってやるわ」
この先輩兼飲み友達はそんなことを言うものだから仙狸はビールを飲み干して立ち上がる、御手洗かと思った門倉と反対にジャケットとカバンを片手に財布から1000円札を4枚ほど出して出ていく
「門倉さんそういう冗談まじおもんないわ」
あまりにも冷たい目と言葉そして泣きそうな顔に門倉の酔いは冷めた、そして彼は1人残されてやけ酒をして家に帰ってタバコの箱を3箱ほど空けた時には借りていたアパートの火災報知器のアラームが作動していたが気にもせず寝タバコをしながら携帯を覗いた数時間前に呼び出して夕飯を共にした女の名前が乗っており深いため息をこぼす
「棺立会人はいないのか」
「はい、本日はもう立会に行かれましたので」
彼女の部下に声をかければそう返事が返され門倉はハァと深いため息をこぼした、珍しくあの食事後連絡もなく顔を見ることも無くなり家に飲みに来ることもなくなり早3週間
明らかに避けられていることは目に見えてわかることであり彼女の近況はほかの立会人や黒服達に聞くばかりだった、原因はわかっていたが門倉とてそこまで彼女が気にするとは思わなかった、自分が立会人になった数年後に入ってきて意気投合して野球を見たり酒を飲んだりするような仲になりお互いに何度か夜を明かしたこともあった
その経験ゆえに彼女も自分を悪くないと思っていると思いあのような話を持ち込んだがそれが原因で避けられるなどとは思ってもいなかった
「おーいおるんけぇ」
「仙狸は居ません、お帰りください」
「ドア壊されたいんじゃな」
珍しく仙狸の家まで来てみれば居留守を使う彼女に無理やり入れてもらう、オフのせいか普段よりも気が抜けた格好でテーブルの上には缶ビールが数本空になって置かれていた
適当にゴミを指定袋の中に放り投げた彼女がインスタントコーヒーを入れて座った
「なんなんですか」
「無視するから会いに来とる」
「無視してません、仕事やったんです」
「じゃあなんで返事ないんかのぉ」
「携帯壊れたんですよ」
見え透いた仙狸の嘘に苛立ちを覚えながら門倉はソファーに座っていた足をテーブルに乗せて睨みつける
「そんなに気に食わんこと言うてしまってたらすまんの、とはいえ避けたり無視するんは大人じゃないんと違うか?」
「怒られる筋合いないし、そんなん言いに来たんでしたら帰ってください」
「おどれほんま舐めとんか、ワシがじょうだ」
「帰ってくださいよホンマにうち…今無理なんです」
初めて見た彼女の泣き顔に思わず驚き門倉は足を下ろして見つめたが、もう帰ってくれと弱々しく言うものだから「分かったから泣くな」と告げても彼女は声を押し殺して泣くばかりだった
帰り道タバコを吸いながら門倉は頭を抱えた、あの女は絶対に自分に気があって結婚についても悪くない答えを出すと予想していたからだ、だがしかしその結果がこんな転び方をするとは予想だにせず更にはあの涙を見たことにも驚きが隠せていなかった
相変わらず仙狸とは本部で会うことも立ち会いで被ることもなく2週間がすぎた、テレビのニュースはグラドルの○○ちゃんが不倫をしていたと報道をしているのを見ながら目の前に置かれたビールを飲んでいた
「なんじゃ珍しいの」
「門倉さんが飯いこうって言うからですよ」
「最近来とらんかったけぇの」
「この間家来てもらったのにすみませんね」
「かまへんよ」
普段よりも静かな会話に苛立ちやらもの難しさや緊張が走る、如何にも困ったような顔をする仙狸にため息がこぼれそうになってしまい門倉は本題に入る
「前はすまんかった、困らすつもりじゃあなかった…本音やったが聞き流してくれや」
「冗談じゃないんやったらお断りします、私門倉さんのこと好きなんで」
「はぁ?」
思わず手に持っていた枝豆の殻がテーブルに落ちた、げえぇっと言いたそうな顔で仙狸はそれを皿の上に落として再度真面目な顔して「好きですから」と告げた
ならあの時の断りようやら冷たい反応やら様々な面で聞きたいことがあったが頭を回転させることに精一杯で門倉は頭を抱えながら目の前の女を見た
「いやだってあんな感じで言われたら誰でも嫌ですよ、好きも結婚についても真剣に言ってもらわな信じれないんです」
「あん時のワシが冗談やと?」
「どう見ても」
「…はぁ、本音ぶつけたつもりやったんやがなぁ」
だがしかし仙狸の意見がわかったとなれば門倉は水を頼んで正座をした、到着した水を全て飲み干してから仙狸の目を見つめて言った
「この通り本気で仙狸が好きじゃ、ワシと結婚前提で付き合ってくれ」
律儀に伸ばされた右手に酔っているのではないのかと聞きたいほどで仙狸は申し訳ないがプッと思わず吹き出して声を出して笑ってしまい、門倉は下を向いてた顔をあげれば彼女は大爆笑している状態で静かな店の中に女の笑い声が響いた
恥ずかしくなる感覚を味わいつつも見つめていれば落ち着いたのか仙狸はいう
「私も門倉さんのことめっちゃ好きですよろしくお願いします」
そう言って真っ赤な顔で笑う彼女が汗ばんだ手で握り返すものだから見惚れてしまい門倉は黙ってしまった、その間に仙狸は何かを告げてタオルを巻いたバイトがテーブルにビールを2杯置いていき彼女が門倉に片方を差し出した
「やっぱ私たちはこっちのがあってるかなぁって」
「そうじゃな」
「じゃあ今後もよろしくお願いします」
「おう、よろしゅうな」
新たな門出として2人は笑いながらビールを飲み干した、その半年後2人の間には双子ができて無事に結婚までもすぐに進んだことはあとの話である。