水色の世界@




「うわ、もうこんな時間だ」
「なに、帰んの?」

神楽が居ない夜の万事屋に女を呼んだ。
もちろんそういったことをする為に呼んだ。
だからと言って下にはババァ共がいる為にあんまり本気でハッスルできない訳で。
でもそれなりに結構楽しんで、やる事をやった後にその女はすぐに帰ると言い出した。

「泊まってけよ」
「明日仕事あるから、無理」
ズバっと切り捨てられるように冷たく言い放たれたその言葉は、まあいつものこととは言え何度聞いても塩対応だと思う。

「なー、俺らいつ付き合うの?」
裸のまま布団に横になっていた俺は軽い口調でそう言うと、名前は一瞬ムッとした表情をした。
しかしこれもいつもの事だ。
「毎回その質問に返答しないとダメですかね?」
「付き合ってくれるまで言うし」
「最初にそれはナシって言ったのに」


名前は今どき珍しい女だ。
男に対して恋だの愛だのと唱えるのが嫌いらしい。
普通逆だろ、と思うくらいにこいつは潔い程割り切った付き合いをしてくる。
今どきこの年頃の女は早く結婚して仕事辞めたいとか、そういう考え少しは持ってねーのかよ。

さっさと服を纏った名前は、少し乱れていた髪を結い直すと部屋を出ようとする。
「ちょっ、待って待って」
素っ裸のまま俺は立ち上がって名前を襖の前で掴まえる。
「せめてパンツ履いたら?」
「んー」
軽く口をくっつけて吸えば愛おしさが込み上げる。

こんな冷たい女に熱を上げてるなんて、周りが聞いたらさぞかし驚くだろう、いや、笑われるだろうな。
付き合ってもないセフレに、すでにしっかり尻に敷かれているんだから。
いや、むしろ俺らしいっちゃ俺らしいか。


「気が済んだ?」
「相変わらず冷てぇな」
「そういう約束だから」
「そりゃあそうだったけど…」
この関係もあっという間で、来月には一年続いている事になる。

俺としては、名前といると素でいられたしいつの間にか居心地のいい、気を使わなくていい相手になっていた。
愛だの恋だの言われるとピンと来ないが、そばにはいて欲しいと思う存在だ。
何より体の相性とか諸々が相性いいと、俺は思ってる。

「あんまり断られると銀さんも傷付くっていうかー?」
「嫌ならやめてもいいよ」
駄目だ。今日も駄目だ。
この話になると名前はいつでも俺を切ると言う。
俺どんだけ愛されてねーんだと悲しくなるが、初めからこの子はドライな子だったから今更だし、俺も無理強いするのは嫌いだ。
今どきデリヘル嬢でもこんな塩対応いねーぞ、思いながらも実際そんな金のかかるもの利用したことがないので信憑性はない。

「ごめん、ほんと、付き合うとか無理だから……」
最後はこうやって悲しそうに謝るのは何でだ。最後まで突っぱねてくれりゃいいものを。
だから俺は毎回フられても微かな希望を持ってしまうんだ。



「俺を誰だと思ってんだっつーのな!」
昼過ぎの団子屋。隣には見慣れた制服の地味な男が一人。
最近年上だということを知ったが、童顔のためか年下にもガンガンいじられてるような男だ。

「万事屋、ですね」
「そうなんだよ、俺は普段から浮気調査とか探偵みたいなこともしてるわけよ!」
「なんでそんなテンションなんですか」
「それでお前は真選組の監察!」
目の前にいる地味が取り柄の男を指を指すと、心底嫌そうな顔をされるが気にしない。

「俺ら二人なら最強だと思わねー?」
「あの、早い話、俺を雇うってことですか」
「アルバイトだと思ってさ、ちょっと一人の女を調べるだけでいいんだよ、な?ジミーくん、手ぇ貸してくれよ」
「ダメですよ、公務員はアルバイトしちゃいけないんで」
「んなもん知ってるし、知ってて頼んでんだよ」
「いやいや!知ってるなら頼まないで下さいよ!見つかったらクビどころか切腹ものですよコレェ!」
「んじゃ報酬は無し、ボランティアってことにすりゃ問題ねーだろ」
「タダ働きしろと?!」
「一般市民にご奉仕ってことで」
「嫌ですよ!俺だって色々忙しいんですよ!」

正直俺の力では名前のどこまで調べられるのか疑問だ。
それなら調べることに関しては一流の、しかも本業であるコイツに頼むのが手っ取り早いし、過去に何度か恩を売ってあるから頼みやすい。

「ある女の生活パターンをちょろっと調べてくれりゃいいだけなんだよ」
「ちょ、それってストーカーじゃないですか」
「ちげーわ!お前らの大将と一緒にすんじゃねーよ!これは情報収集ってやつ!」
「ダメです、一般市民の生活を張るなんて単なるストーカーじゃないですか!こちとらその手に関しては敏感なんですよ!」
「だからちげーし!ストーカーじゃねーし!」
「犯罪や事件性がない案件なら本当に無理ですよ、それこそコッチが犯罪者になりかねませんし」
「んじゃゴリラは立派な犯罪者だな」
「……それは言わんでください」

上司のことを言われりゃぐうの音も出ないようだが、普段地味で自分の意見なんかなさそうなコイツがもっともなことを言う。
俺コイツが警察官なのを完全に忘れてたわ。



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