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親愛なるブラック殿
このたびホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。教科書並びに必要な教材のリストを同封いたします。
新学期は九月一日に始まります。七月三十一日必着でふくろう便にてのお返事をお待ちしております。
副校長ミネルバ・マクゴナガル
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ついに来たか、とプロキオンは息をついた。もちろんこの手紙が夏の間にプロキオンの元に届くのは分かりきっていたため、決して、これっぽっちも、不安など感じてはいなかったが、それにしてもちょっとおせーんじゃねぇのか? とイライラしていたとある夏の夜のことだった。
「おめでとうございます、お坊ちゃま」
そして、手紙が遅れて苛立っていたのはプロキオンだけではなかった。プロキオンに一日五回も手紙の有無を尋ねられ、自分にはどうしようもない愚痴をグチグチと零されていた声の主もまた、表には出さずとも苛立ちを募らせていた。祝いの言葉を述べつつも、その声色には何処か棘を感じる。
「当然だ。クリーチャー、茶を入れてこい」
「かしこまりました」
声の主――クリーチャーは首を傾ける程度のお辞儀をすると、バチンと音を立てて姿を消した。
クリーチャーとは、ブラック家に仕える
屋敷しもべ妖精の名である。丁寧な言葉とは裏腹に「お坊ちゃま」であるプロキオンを見る眼差しに尊敬の色はない。クリーチャーは以前からご主人の一人であるプロキオンにたびたび反抗的な目を向けていたが、この夏でその目は薄暗い鋭さを増したように思える。
そしてプロキオンもまた、夏が来る前から醜く可愛げのないハウスエルフのことを好いてはいなかったのだが、クリーチャーの生意気な変化に気付いた後は元来抱いていた嫌悪感をより一層強くしていた。彼らは互いを互いに嫌っていた。
そんな一人と一匹が表面上だけでもありふれた主従関係を演じられるのは、彼らの利害関係が一致しているからである。
あの人が自分たちに、良好な関係の確立を望んでいるから、と。ポツリと独り言のように零された望みだったが、彼らはそれをきっちり聞き届けていた。
手紙を右手に掲げたプロキオンは優雅にソファに腰掛け、クリーチャーが持ってきた紅茶を飲んでいた。プロキオン好みの美味しい紅茶だったが、褒めるような言葉が彼の口から出ることはない。彼らの表面上の関係とはあからさまな敵意を表に出さないだけで、仲良しこよしをするものではないからだ。
「おいクリーチャー、明日買い物に行くぞ。荷物持ちに付いてこい」
「お買い物にはレギュラス様が同行なさるので、クリーチャーめは留守番をしているようにと既に言いつけられております」
「なにぃ!? 父上が!?」
プロキオンは鋭い靴先でクリーチャーの肩を蹴りながら部屋を飛び出した。彼の慕う「あの人」こと父上の書斎の前で身だしなみを整え、目の前の扉をノックする。
「父上、よろしいでしょうか」
「入りなさい」
広く整頓された部屋の中には、プロキオンによく似た一人の男がいた。プロキオンの父であるその男の名はレギュラス・ブラック。洗練された雰囲気も聡明そうな顔立ちも全てが大好きだが、その中でも薄いグレーの瞳がとりわけ美しく思えるのは、自分には無いものだからだろうか。プロキオンはレギュラスによく似ていたが、虹彩だけは違う。プロキオンの瞳は明かりの下でも色を変えないほど、暗く黒い。
レギュラスは仕事が休みにも関わらず机に向かい、薄っぺらい紙の積み重なった分厚い束を左手に持っていた。「どうかしましたか」レギュラスの美しいアルトの声がプロキオンの耳に届いた。
「先程ホグワーツからの許可証が届きましたので、報告に」
「そうですか、おめでとうございます」
「それで、教科書や備品が必要なのですが……」プロキオンはチラと上目遣いをする。レギュラスは微笑ましげに目元を緩めて、プロキオンを喜ばせた。
「次の休みに買いにいきましょう。一緒に」
「本当ですか!?」
わーい! と万歳するのは心の中だけで留めて、プロキオンは努めて可愛らしく「ありがとうございます」とはにかむ。プロキオンは父の前で可愛らしく振る舞う癖があった。
プロキオンは久しぶりの父との外食に心を躍らせていたが、ふと許可証が届いた暁には、と心待ちにしていたものを思い出した。
「父上、ホグワーツに関する書物を読んでみたいです」
プロキオンの申し出にレギュラスは「そうですね」と立ち上がると、部屋にあるもう一つの扉の向こうに消えた。
その奥の部屋はレギュラス専用の書庫で、プロキオンが今いるレギュラスの書斎からしかいけない部屋だ。プロキオンはレギュラスの許可なしに書斎には入れないし、もちろんその書庫にも入れない。プロキオンが自由に出入りできる書庫も別にあるのだが、レギュラス専用の書庫にはその書庫には置かれていない、プロキオンが読むには危険だったり、レギュラスによりまだ読む必要のないと判断された本が置いてあった。そんなことを言われてしまえばかえって気になる……とプロキオンは何度か侵入を試みたことがあったのだが、ドアや鍵の破壊を試みてもピッキングを試みても(半ばやけくそで)火を放ってみても全て無駄だった。許可がなければ、というのは物理的な意味で、レギュラス本人が入っていいと認めなければ扉が開かないような魔法がかけられているようなのだ。
ホグワーツに関する書物もまた、レギュラスの評する「まだ読む必要のない本」にあたるらしい。それをプロキオンはホグワーツの本を読むのはホグワーツへの入学が決まってからでいい、という意味だと勝手に解釈していたため、許可証が届いた今なら読ませてもらえるのでは、と考えて申し出たのだ。
プロキオンはホグワーツが楽しみだった。どんな人たちが、どんな所で、どんな事をするんだろう。ホグワーツについて、知りたいことが山ほどあった。
書庫から戻ってきたレギュラスは一冊の本を抱えていた。複数冊あると予想していたプロキオンは少しガッカリしたが、その本はかなりの分厚さがあったので十分だという気にもなった。
「どうぞ」
「ありがとうございます!」
プロキオンはレギュラスから受け取った「ホグワーツの歴史」を一晩中読み漁った。そして、まだ見ぬその城にキラキラと光り輝く思いを馳せていた。
1−01/ホグワーツからの手紙