真夜中に広がる暗黒の世界。街灯が怪しく照らすその道をひたすら走る。すれ違う人なんか1人もいなくって、どことなく不気味にも思えてくる道が、胸の内の不安を一層大きく膨らませていく。自らの息を激しく吸う音が耳に響いていて。忙しなく足を動かすこと数分、ようやく目的地に辿り着いたのだ。

「はぁっ……、ばみっ!!」

私の探していた人物は、薄暗く街灯がほんのりと灯る公園で、ブランコに座ってじっと星空を眺めていた。その姿は、あまりにも悠長なもので。この上なくイラッとしたのは私の心配が全く無意味なものだったと気付いたからだ。

「名前……どうした?探し物か?」
「っはぁ…はっ……そうだよ、探してましたよ。君をねっ!!」
「…?……さっきメールしたの、見なかったのか?」
「見たから来たんでしょ!!?何よ、探さないでくれって!!ばかにしてっ…ゴホっ」

街灯に照らされて輝く綺麗な瞳をゆっくり私に向けながら、呑気に話す彼にツッコんだ勢いで、思わず咽てしまう。久々の運動のせいで乱れた呼吸のまま話し過ぎたのが原因だ。ゴホゴホと咳込む苦しさで、自然と顔を地に向ける。

「ーっ、名前!!?」

咽て俯いた私を見て、様子を一転させて飛びよってくる彼。慌てた弾みで投げだされたブランコが、ギコギコと鈍い音を立てて揺れる。あっという間に横に来た骨喰は、腫物を触れるように私の背中に触れてくる。

「ごめん、平気……走りすぎただけ」
「……そうか」
「はは、大丈夫。そんな、慌てなくても」
「…あぁすまない。……どうも名前のこととなると、気が気でないんだ」

背中に添えられた暖かな手の温もりが、名残惜しく離れていく。その暖かな感覚が、妙に頭から離れないで、僅かな温もりだけが残っていた。道路を一台の車が通り抜ける。そよそよと穏やかな風を頬に感じると、私の息も徐々に落ち着きを取り戻す。もう大丈夫と背筋を伸ばすと、そうかと呟いて、私よりも背の高い彼は、さらに頭上の夜空を見上げ、再びゆっくりと口を開いた。

「夢を、見るんだ。幼い頃からよく見ていた怖い夢を」

だが最近は違うんだ。彼の見つめる先で月が静かに輝いている。その瞳は、どこか遠くの、まるで私の見えない何かを見つめているようにも見えて、どことなく歯がゆさを覚えた。儚い色をしている瞳に、胸を締め付けられる。

放って置けばどこかへ消えてしまいそうなその人に、堪らず私は彼の手を奪った。冷えてしまっていたその手に、内心ぎょっとする。両手で包んで力強く握りしめると、彼は少し驚いた様子を見せるも、再び話を続ける。その口角は少し緩んでいた。

「炎に包まれている夢。それがどこなのかもわからずに、毎回、その夢のせいで苦しんでいた」

そんなことは初耳だった。付き合いは長い方だと思っていたのに。本当に彼は無口故に謎なところが多い。そこに惹かれたのも、また事実なのだが。

「だが最近はそこで誰かが手を差し伸べてくれるんだ」
「手?」
「そうだ。小さくて優しくて暖かい手。それに覚えがあって、しかし、それが誰か思い出せなくて。ずっと悩んでいたんだが……」

ようやく見つけた。

声が聞こえたと思った瞬間、包んでいた手が離れてるや否や、その大きな手の平に背中をぐいと引き寄せられる。縮まる距離と交わる視線に驚いて距離を置こうとするが、それよりも彼が私を閉じ込めてしまうのが早かった。力強く拘束した彼の手が1センチの距離を置くことも許してくれない。普段の彼からは想像もできないような荒々しい動作にこわばる身体。なのにその瞳には慈しむような優しい色が宿っていて、私の頭は混乱していく。

「名前だったんだな」
「骨喰っ何して……」
「愛している」
「っへ……」
「一目見た時から、愛しいと思っていたんだ」

ふと解かれた拘束。ゆっくりとした動作で今度は頬を包みにくる。見つめ合う視線を固定するような両頬の手のひらがひんやりしているのは、私の頬が熱いせいなのか、彼の手が冷たいせいなのか。徐々に近づく整った顔に思わずゆっくりと目を閉じた。ふわりと、彼の髪の毛が顔に落ちてきて、頬をくすぐる。

「君の瞳が何故かすごく愛しくて。その理由を、たった今、見つけたんだ」

どうした、顔が赤いぞなんて確信犯。