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二律背反の道化

「ホッホッホ…」

目の前には悪意と嘲笑の帯びた笑い声
自分自身はどうして良いか分からず顔が強張る

相手は普段なぜか私に対して強く当たってくる友人
なぜ 強く当たられているか
その理由も心当たりも自身には全くない。
ただ、本当に最初は仲が良かったのだが
どうしてこんなに関係が拗れたのか皆目見当もつかない。
…以前に一度だけ、理由について聞いたことがあるが
「絶対お前には分からないと思うのサ。」
とはぐらかされたまま今もずっと悪意が見え隠れしたり
悪戯続いているのだからタチが悪い

どうしようもない事が分かっているのだから早々に諦める。
だって、最悪な事に後ろは壁で私を間に閉じ込めて
逃げられない様にまるで壁のように立ちはだかっているのだから
これから、私は何をされるのだろう。

「ねぇ、シュリル。どうしてボクから逃げるんだい?」

私の直ぐ横の壁に手を付いてぐっと顔を近づけ瞳を覗き込んできた
私だけを写す彼の紫水晶のような瞳の奥底
ほの暗く冷たい狂気の片鱗を覗かせていて思わず背筋に悪寒が走る。
こんな錯綜した状況下の中で真剣な眼差しで見つめられて
彼から目が離す事も微動も出来ずにただ息を呑み込む。

「……マルク、…やめて」
「…ほら、答えて欲しいのサ」

無意識に口から漏れたその言葉は静かな空間の中に響き
絞りだすように出た声は当たり前に震えていた。
それが彼の勘に障ったようで振り解けないほどの力で
手首を掴まれ壁に押し付けられて
その壁の冷たさと込められた力が強く、涙目になる

「シュリル」

普段と違う優しい声音で名前を呼ばれ、どきりと心臓が跳ねる
何をされるのだろう、とこれからどうなるのか考えると自然に肩を強張る
お互いの吐息がかかる程の距離に
堂々巡りしている思考は何を想う事が出来るのか

「ねぇ、シュリル。良いことを教えてあげるのサ」
「……、っ」

曖昧を保っていた距離を不意に詰められみつくように唇を奪われる。
無論、彼によって塞がれたこの場に逃げ道は存在しない
息苦しさと生理的なものかじわりと込み上げる涙がぽろりと頬を伝う

「…ま…、…ぅ、ク…っ、…んっ、」

口膣を舌で掻き乱され歯列をなぞられ舌を吸われる。
激しく迫り何度も何度も角度を変え繰り返される口付けに息も絶え絶えになるが
空気を吸
うために一瞬しか離れない唇も直ぐに塞がれ甘噛みされる。
酸欠の為か足の力が入らず彼に身を委ねる形になる
やっと開放された後に頬を伝う涙をそっと拭く指先は酷く優しかったが
口から吐き出されるマルクの言葉と表情は余りにも正反対で

「ボク以外にも優しくする君なんて、大嫌いだ」

刃物のように鋭利な視線で身体も意識も凍りついたシュリルを貫く
くすくすとマルクは嘲笑というよりも、自嘲に帯びた声色でそう告げて
シュリルの頬をなぞるようにして首を撫でて爪先を強く押し当てた。

(君は未来永劫 ボクのものだ、他の誰にも渡さない)

二律背反の道化

2020/10/09 修正加筆
2012/03/15


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