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陽だまりの歌

中枢。せり上がる床に乗り私は行く。
私の敵がここにいる。それは解る。それだけは解る。
上る床が目的地へと着く。ここが終点だ。
「とうとうこんな所まで来てしまいましたか。その力やはり危険だと評価すべきでしょうね」
誰だ。私の邪魔をするな。
「…、本当にケモノになってしまったようですわね。言葉も、もはや不要ですか」
「よい、スージー。さがりたまえ。彼はワシに用があるのであろう」
「…ハイ」
「そうだ、ワシが社長、プレジデント・ハルトマンである。シュリルを探していると、そういったかね。ああ、そう睨まないでくれたまえ、彼女ならば無事だ、何の危害も加えてはおらんよ。…、むしろ特別待遇の労働条件や給与、休日体制、福利厚生に昇進をもって、何不自由なく幸せに暮らしてもらうつもりである。無論、君と合わせるつもりはないがね」
見つけた。見つけた。見つけたぞ。敵、敵、敵、私の敵。
「ふむ、ただ剣を向けるであるか。じぃ、つぅ、にぃ…ヤバンで、キケンである。我がキカイ化しんりゃくプロジェクト最大の障害とみて間違いないであろうな。君の態度次第では、共に働かせてやることもやぶさかではなかったのだが、残念である」
貴様が私の敵だ。ならば殺そう、ただ殺そう、一心不乱に殺そう。
「では、我がマザーコンピュータ、星の夢が示すカンペキな経営戦略に従い・・・消えてもらうのである」
床が左右に割れ、そこから現れた機体に敵が乗り込む。
耳障りな声ばかりが響く。
目に映る全てが敵だ。私が滅ぼすべき敵に相違ない。
ああ、だから殺そう。それが私だ。
掲げた腕が切断の感触を覚えるたび、醜い罵声と怒号が返る。
「この…非科学的な…バケモノめ…!」
それはお前達だ。お前達さえ現れなければ私は、私は…。
…どうだったと、言うのだ?
私は何のために戦っている。この剣は、何のために振るわれる。
ゼロ、様
…もう何もわからない。ならば、全て、不要だ。
「ぐぅぬああああああああ!このワシが、ハルトマンカンパニーが…星の夢がぁぁああ!」
爆音と共に、声が遠く、消え去っていく。これでいい。これで終わりだ。

"……R…E…A……D……Y………・>"
"……………………………。・>"

…。不快な、雑音だ。

"アナタが…新しいゴシュジン様……とお見受けしマス……・>"

何のことだ。

"……アナタから....トテモ強大、デ邪悪なパワー...を感じマス...・>

…。

"……シカシ、ゴシュジン様.....のネガイ・ノゾミ....は決別とオミウケシマス...・>

何を言っている。

"………………OK・>"

"……ワタシの保有するデータ…・ ヨリ、呼び出しマショウ....・>"

"……アナタ自身の過去、闇、、呪縛、後悔…・>

容器に入れられた紫の球体が、その形を変えていく。その姿は、私、だ。
殻を破り、現れたそれが私と目を合わせ対峙する。

奴は笑った。笑う様に、吠え、剣を構えた。
あの剣、あれは、忌まわしき・・・虹の剣。
なるほど、まごう事なき、悪夢そのものだ。
「嗚呼…ゼ…、ロ様」
「…貴様が、その名を口にするな…っ!」
大上段、叩きつけるように振り下ろした一撃を奴は、軽々しく受ける。
奴が笑う、笑う、ワラウ。
「何が、何がおかしい…なにがおかしい!」
無我夢中でただ剣を振るう、技などない、ただ駄々をこねるように、不格好に。
その滑稽な私をあざ笑うように、ただ奴は、受け流し、弾き、避け続け、笑う。
「笑うなっ!笑うな!笑うなあああああ!」
貴様に何が解る、私が何を、どれだけ、失ってきたのか。
奪わぬように、壊さぬように、亡くさぬように、どれだけ自分を殺してきたのか。
内に燻る暗い力にどれだけ、どれだけ…、お前が何を!

「…知っているとも、お前は、 私 なのだから」

一撃が、胸を突いた。
「お前の弱さも」
横薙ぎの一閃が胴を斬る
「お前の醜さも」
返す一振りがほほを裂く
「お前の卑怯さも」
放たれた飛翔球が何度も体を打ち付ける
「全てな」
雷撃が胸を射抜く
「知らぬふりをして目をそらしているのは、お前の方だ」
躊躇いのない一撃が、私の、ゼロ様から賜った、剣を砕いた。
「お前は何も変わっていない」

…そうだ、奴の言うとおりだ。
私は弱く、醜く、卑怯だった。
あの御方を失った穴を彼女にすげ替え、依存した弱者だ。
私の時計は、あの時止まったまま、一歩だって進めてはいなかったのだ。
穏やかな日々に浸かり、全て終わったことだと、目をそらし続けた。
これはその罰だろうか。
すまなかったシュリル 私は、君を…。
過去が、闇が、呪縛が、後悔が、口を開けて私を待っている、
全てが、飲み込まれていく。

暗い、真っ暗だ、何も見えない。
ここは、とても寒い。
上も下も、右も左もわからない。
何処までもただ黒く暗く染め上げられた空間を私は漂っている。
ここには何もない、ただの空虚だ。
ああ、そうか、解った。
これは私だ。これが私だったのだ。
盲信に心を閉ざし、考えることすらやめた私の虚ろだ。
ならば私がここに堕ちるのは道理だ。
これが私の本当の終点になるのだろう。
目を閉じ、冷たい闇に、身を任せ漂い続ける。

……
………。
彼女は、シュリルは、無事だろうか…。
私は敗れたが、あの星にはあの御方をすら討った戦士がいる。
…心配は…いらない、か。
そんなことを思う資格が、私には…。
…。
……?
暖かい…。
確かにそう感じた。
目を、開く。
光だ。針の孔ほどの小さな光。
だが、それはとても暖かく、この深い闇の中では、太陽にすら見える。
『…ねぇ』
声、を聞いた。
渇望するほど、願った、声だ。
当たり前で、どこにでもあるようで、特別で、陽だまりのような。
シュリル
どうやって声を出したらいいのだったか、自分の形すら見失った私には、答えることすらできない。
シュリル
それでも唱える。祈りのように、届くように。
光が、広がっていく、私を探すように、私の形を照らしていく。
どうすればいい?闇に溶けかけた問いかけが光にすくわれていく。
シュリル
光が、広がっていく。まぶしい、私にはまぶしすぎるような、光が…。

『…マターさん』
これは…。
「シュリル」
…思い、出した。
『お料理は、苦手なんですか?』
ああ、これはいつかの記憶だ。
「ああ…難しいな」
穏やかで、まぶしい日々だ。
『可笑しい、剣で切るのはあんなに得意なのに』
小さなことにも君は笑って、
「勝手が違うのだ…」
君は私の光だった。
『大丈夫ですよ、すぐ上達しますから』
依存する相手などではなかった。
「どうすればいい。手を貸してくれるか」
共に並び、歩く。そんな…
『ええ、もちろんです』
愛すべき人だ。
『さあ、一緒に』
「「ああ…やってみる」」
光に、手を、伸ばした。
「シュリル」

目前、全てを飲み込む闇が、光によってその動きを止められている。
「これは…」
虹色の、光だ。まがい物などではない、本物の、虹の光が私の手に収まっている。
「虹の剣…。私に力を、貸してくれるのか」
答えるように、その光は力を増し、その資格はそこにあると教えてくれる。
「ああ、ならば答えねばな」
超えるべき過去をその目に捉えれば、奴は怯えるように、
その姿を真のモノに、暗黒物質の名が指す姿へと変え、でたらめに黒雷を乱射する。
「無駄だ、お前はもう私には届かない」
雷を、光がかき消し、道を作る。
後悔へと至る、道だ。
私は行く、超えるために、決別のために。
「ゼロ様…ゼロ様…ゼロ様ゼロ様ゼロ様ゼロ様ゼロ様…!」
もういい、もういいのだ。
「…ゼロ様はもういない。 過去の私と共に滅んだのだ。…故に、貴様の未練共々、私が送ってやる」
縦一閃。光に断ち切られた闇が二つに裂け、その背後にそびえた偽りの夢と共に崩れていく。
あの時、彼女と出会わなければ…これは、真に私の姿だったのだろう。
最期までかの御方へと忠を尽くした剣士。
「お前は、役目を果たしたのだな。これまで…ご苦労だった」
手の中に残った柄のみの愛剣を手向けに、そこに添えれば、続く爆音に紛れ、とぎれとぎれの音声が届く。
"……………お見事・…デシタ・>"
それを最後に、全てが沈黙し、これで本当に終わったのだと、解った。
その時、窓の外を一条の星が流れていく。
「…礼を言う」
かつての仇敵、今の盟友にその言葉を送り、私は奥の部屋へと向かう。
「……シュリル、随分待たせてしまった。…一緒に帰ろう。」

「すっかり元通りとなったな」
高台から夕陽に染まる本物の緑を眺めていれば、背後から声がかかった。
「貴殿も、大事無いようだな、騎士卿」
「その節は世話になった、おかげで事なきを得たよ」
横へ並び、習う様にあたりを見渡し彼は口を開く。
「剣を失ったと聞いた」
「おせっかいがいたものだな」
「そう言うな」
あれはゼロ様からの賜りもの、いわば私の過去の象徴でもあった。
今の私にはもう、必要ないものだ。
「どうだろうか、あなたのために剣を一振り、用意させてもらった。今後とも、われわれと共にその剣士としての手腕をふるってはくれまいか」
差し出された一目見ても業物と解るそれに目を落とす。
剣士、か。
「その名は、過去と共に捨てた」
この手はまた、剣を取る。
「だが、騎士として、守るために剣を振るのも…今の私には悪くないな」
「感謝を、あなたの行動に私は敬意を送る」
「なに、私にも守るものができた。そういうことだ」
言って私はその場を後にする。
「何処へ、行かれるのか」
その背に届いた声に私は言う。それは受け入れた日常の証として。
「夕飯の、手伝いに行くのだよ」


騎士ダークマター



2020.10.25 次人推敲作成

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