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[ ▶星野 ▶LAL ]
明日がきっと好きになる : 後

やっぱり、というべきか
城への道中、ダークマターさんは周辺の風景を物珍しそうに観察していたが
お互いに会話は無く、暫く無言が続きついにはそれに耐え切れなくなったシュリルが
ダークマターさんにおどおどしながらも話しかける

「…あの、ダークマターさん」
「なんだ」
「物珍しげにきょろきょろしてますけど此処が珍しいですか?」
「ああ、」
「…もしかして別の星の方ですか?」
「……そうだ。」
「失礼かもしれませんが、ダークマターさんのいた星ってどんな所ですか?」

気になります、と付加えダークマターさんの方向へ振り向くと
ダークマターさんは私の方にすっと視線を合わせていたらしく
私が振り向いた事によって視線が交じり思わず心臓が音を立てる
よく見るとこの人格好良いなあ
恐らくメタナイトさんと同じぐらい格好良いんじゃないかな
でも雰囲気のやわらかさで言えばメタナイトさんの方がいいけど
雰囲気と威圧感さえ如何にかしてくれればなあ、と
胸裏では失礼にもそんな事を考えた

「…闇に包まれ何も無い虚無に満ちた所だ」
「え?」
「宇宙で儚くも眩く輝くポップスターと違って光さえ届かない真っ暗な闇そのもの」

闇。ダークマターさんの名前の様な真っ暗な所らしい。
光が何一つ無いなんてどんな所だろう、と想像をする。
そして視線をダークマターさんに向けた時、思わず息が詰まる。
一見すると無表情に見えるが地面に多い茂る草木を
じっと眺めるダークマターさんに何処か寂しげな雰囲気に感じてしまった。

「光が無いから植物も育たない。
 それ以前に地面すらない異質な空間。死が漂う常闇の世界、」
「…じゃあどうやって生まれて暮らしていたんですか」
「生まれて、というよりもあの方に作られた。
 そうして唯与えられた使命を果たし存在していた」
「作られた…?マターさんが…?」
「…ああ、作られたんだ、私は」

作られた、と断定する彼は此処に来るまでは
真っ暗な何も無い世界にいたと言う事らしい。
そしてつまりはこのプププランドに広がる情景は
恐らく彼にとっては初めての体験ということだろう

今日の真っ青な空に浮かぶ綿菓子みたいな雲に太陽の陽気な日差し。
優しく吹き抜ける春風の心地よさ、甘い花の香り

そう考えると今までの彼の物珍しそうな挙動も不思議と納得できて
シュリルは無意識にじゃあ、と言う言葉が口から零れ落ちる

「ダークマターさんは知らない事がいっぱいなんですね」
「…そうなるな」
「なら、」

錯覚かもしれない、でも寂しそうに見えてしまったダークマターさんに
お節介にもこのポップスターや色んな楽しい事を沢山教えてあげたいと感じた。

「ダークマターさん…私と色んな"初めて”を体験しませんか?」
「…色んな初めてを体験?」
「そうです。日向ぼっことかお昼寝、お花摘みとか
 数え切れないぐらい沢山ありますよ!…宜しければ一緒に私と体験しませんか?」
「……お前とか?」
「はい!私もやった事がないものなんて一杯ありますからね!
 …でもダークマターさんが良ければ、ですけど…」
「……」

沈黙、
考えるように黙り込んでしまったダークマターさんに
やはりお節介だっただろうと感じて少し考え慌てて
前言撤回しようと言葉を口から出そうとするがそれは叶わなかった

「シュリル」

雰囲気が和らぎ威圧感が和らいだような気がした
少しだけ、だが柔らかな声音で名前を呼ばれる

やっぱりこの人格好良いなんて感じたが実際それどころではない
格好良い人に柔らかに名前を呼ばれるなんて今までの経験から言うと
そんな事、初めてなものだからそんな耐性がついているわけがなく
自分の顔に熱が集中するのが分かる。非常に照れてしまっているわけだが
じっと見つめられて視線をそらせるなんて自分には出来るはずがない。
お互いにじっと見つめた状態になる

「ありがとう、…シュリルが迷惑でないなら、是非ともお願いしたい」

てっきり遠慮されたりすると思ったがダークマターさんの返事は承諾の言葉。
ダークマターさんを見るとやはり無表情に見えたが
たどたどしいながらも彼の纏う空気が柔からくなった気がして
シュリルの胸のうちがほんのりと温かくなって自分も嬉しくなった。
ダークマターさんに色んな事を教えてたり一緒に体験したいな、と。

春の暖かな陽気に夏のじっとりとした暑
秋に吹く風の心地よさ、冬の真っ白な雪の冷たさ

知らない事が殆どのダークマターさんに沢山教えてあげたい
もうこの時には出会った時に感じた恐怖は今では微塵にも感じなかった。

「はい、勿論ですよ!
 …じゃあ、早く大王様の城に行ってその後に何かしましょう!」
「ああ」
「やった!…なら今日はとっても天気が良いので
 日向ぼっこをしましょう?とても気持ちいいですよ!」

日向ぼっこ、なるものを知らない
ダークマターさんは頭に疑問符を浮かべているけど
教えてあげますから早く用を済ませちゃいましょう、と
笑いながらダークマターさんの手をそっと掴んだ
掴んだ感触も、何の温度を感じないダークマターさんの手に
少しだけ吃驚するがダークマターさんの方を向いて視線を合わせると
いきなり手を掴かんだ事に対して怒った様子はなく
寧ろ笑っている様に感じて色んな事を教えてあげたいなぁ、と
彼に対して心の奥でぽかぽかと暖かい気持ちになった


(その少女に惹かれる)




2020.05.05 加筆修正(2部に分けました)
2012.03.27
2012.09.18 書き直し
2015.07.09 修正+加筆

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