haco

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施術記録1,星の戦士

私は、コリト。
小さなテントを店舗代わりに各地を転々とする流れの足つぼ師だ。
足とは実に興味深い。
それを見るだけでどこかその持ち主の人生、
その一端を垣間見るような気分になる。
故に私は固定の客を持たず、こうして土地土地を巡っては
新たな人生の有り様との出合いを楽しみながら仕事をしている。
さて、この平和の国プププランドは、私に何を見せてくれるだろうか?

テントと看板を張り出せばポツポツと客が現れ初め、
数日のうちにほんのりとその噂は広まってくれた。
静かで平和な土地ではこういった些細な異物の話は良くも悪くも早く広まる。
つまり、腕の見せ所、ということだ。

ここに居を構えて数日、なかなかの好感触を得られたようで客足は伸びつつある。
しかし平和が取り柄というだけあり、
来る人々の足足はとても穏やかで、代わり映えのするものではなかった。
無論、そういう客が悪いという話ではない。
仕事の張り合いの話だ。
ここらで一つ、なにか数奇な命運に苛まれた足の1つ2つめぐり逢いたいものだ。

「よろしくおねがいしまぁーす!」

と、思っていると次の客だ。
淡い薄桃の髪をした、どこか間延びしたような青年だ。
のんびりとした雰囲気は、絵に描いたようなこの国の人物である、といった風だ。
平凡な仕事になりそうだが手を抜くつもりは無い。
軽やかそうなその足を、さらにスッキリさせるとしよう。
と、その青年の足に指を当てた瞬間だ。
私はその身が固まるのを感じた。
その厚み硬さ。癒えて見えなくとも抱えた傷。
奥底を流れるその血流が告げる。
「歴戦」
只者ではない。
長く戦場を渡り歩き、命の駆け引きを重ねた者にしか現れないであろう風格がそこにある。
落汗一滴、思わず息をのみ、呼吸を落ち着けてから

「はじめるよ」
と言って、初手を押し込む。
「あっはっはっはっは!いったったたたた!最高に痛い!あははは!」
転げ笑う彼は痛いのかくすぐったいのか、涙まで浮かべているが本当にそこの見えない青年だ。
しかし、しかしだ、なんと言ってもこの、この…
「そ、そこ!一番痛い!あっはっはっは!なんだろうそこ!いったったたたはははは!」

この、胃!

「ここは胃だね、こんなに恐ろしく硬い胃は、はじめて見るよ。
 少し…いやかなり食生活が乱れているんじゃあないかな」
これでも言葉は選んだ、うん、多分。

「あっはっはっは!いやあ8分目で収めてるつもりはあるんだけど
あっはっはっは!食べすぎって怒られてばっかりだね!」
う、ううむ、食べる事に命を賭ける戦士?なのだろうか。
歴戦の意味を捉え違えたのだろうか、
いやしかし厳しい戦いの気配もありありと伝わってくるのだが…
容赦なくごりごりと胃をえぐられ転げるこの青年自身には…
そんな感じはしないよなぁ…

その後も施術終わりまで終始笑い続けた彼は、
「やー足もスッキリしていっぱい笑ったらお腹減っちゃったな!
 ありがとセンセ!これでもっといっぱい食べれちゃいそうだよ」
そのくらいにしておきたまえよ!と思わずいいかけたが
「それはまあ、うん、何よりだよ、またよろしく」
と、言えば、大きく頷き彼は去って行った。

後日、カービィというその名と所業を、
食いそこねた昼飯の行方と共に知ることになった私は、
の食欲増進の一因となってしまったことを少しばかり後悔した。




2021.05.20 次人執筆/up


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