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施術記録2,総司令

私は、コリト。
小さなテントを店舗代わりに各地を転々とする流れの足つぼ師だ。
足とは実に興味深い。
それを見るだけでどこかその持ち主の人生、
その一端を垣間見るような気分になる。
故に私は固定の客を持たず、こうして土地土地を巡っては
新たな人生の有り様との出合いを楽しみながら仕事をしている。

プププランドに居を移してしばらく、客足も安定してきた昨今に面白い依頼を受けた。
こういう仕事をしていると時折こういった仕事を受けることがある。
さて、どんな顛末になることか。

「…足つぼ師、コリト殿のテントに違いないだろうか」
仰々しい、と言うにふさわしい確認の文句が聞こえてきた。
どうやら依頼の客が来たらしい。

「違いないですよ、どうぞ中へ」
返した言葉に、失礼、と応じる声が帰り、
入口の布を軽く上げてその姿が静かに滑り込んでくる。
物々しい軍服、鉄仮面、顔が見えなくてもわかる仏頂面。
聞いていたとおりの堅物らしい。
静かで物腰は重々しい。
鋼の総司令メタナイト卿。噂に違わない人物のようだ。

「部下が無理を言ってすまない」
開口一番、そんなことを言ってくる。
そう、今回の依頼は彼直々ものでは無い。彼の部下からだった。
確かに、今日一日を彼一人に費やす、という契約は
なかなかに面を食らったが、訳も聞いているし、それなり以上の額は貰っている。
一人施術で3日分は稼いだといえば、正直、ありがたいぐらいだ。

「いえ、なに、こちらが申し訳ないくらいです。どうぞ遠慮なく」
とかく多忙を極めている彼が時間を開けられるときは限られ、
加えて不定期だ。故に、貸し切り、という形での依頼となったわけだ。
プププランドに住むものなら知らない者はないとまで
言わしめる大御所を診るとなると、それなりの緊張感はある。
そこはかえって余所者で有ることが役に立つもので、
聞きかじった程度の武勇伝しか知らない故にこの程度で済んでいるのだろう。
畏怖、畏敬。ただの尊敬ではないそれらは、彼の前に立つものをどれほど震え上がらせるだろうか。
漂う気配のそれは彼がただ人を救うだけの善人でも、英雄でもない事をどことなく匂わせる。
さて、どんな物を見せてくれるか楽しみだ。

「世話になる」
一言、そう言えば置かれた椅子に腰掛けて足を差し出して来る。
「では、始めましょうか」

初手、まるで刃物に触れた様な感覚があった。
鋭く、研ぎ澄まされた感触。
寄せ付けず、妥協なく、ただ刃であり続ける。
彼が、その刀身を鞘に納め、息を抜ける時はあるのだろうかと疑問に思う。
どこまでも剛健であるその足裏を押していけば、部下たちが気をもむのも解る。
どれほどの物を一人で、この足で背負っているというのか。
おそらく軸足としているであろう足を触れば、恐るべき鍛錬の痕跡がある。
文字通り、血の滲むような、だ。
総司令というのは椅子にどっかりと座りこみ、
指示を出すのが仕事なのだから、
むくんでパンパンの足なのだろうと思っていたが大きな見込み違いをしていたようだ。
この人物は間違いなく最前線に立ち続けている。
無理をしている。無理を承知した上で彼はそこに立っている。
きっと周りの誰もが気づいていても止められ無いのだろう。
…さても、頼まれたからにはせめて体の重荷くらいは軽くして差し上げねばな。
とかくどこもかしこも疲れ切っているのは明確だ。
どれひとつ…
「…」
流石、顔は見えないが動じることすらない…ん?
気のせいだろう。
もう一度。
「…」
気のせいではない。彼の背後に炎が吹き上がるような幻覚が見え隠れしている…!
恐るべき気迫…!まるで彼自身の存在が膨れ上がるかのような…。
何という緊張感、圧迫感。
押しているのは私のはずなのにまるで押しつぶされているようだ…!
耐えろ、私にも意地というものが、ある!

「…お疲れ様、でした」
流れ落ちた冷や汗も隠せないまま、
私がそう言えば、どこか軽くなった気配をまとい彼は立ち上がる。
「…いい腕をしているようだ。礼を言う。機会があればまた頼むとしよう」
「それは、何より。またぜひご贔屓に」
うむ、と応じて踵を返した彼の背に、そうだ、と思い、私は声をかける。
「ああ、あと一つだけよろしいですかね」
何か、と彼は足を止めて聞く。
「あー、差し出がましい事を言いますよ」
「聞こう」
先を促された頷きに答える。
「どうも貴方は自分一人で物事を背負い過ぎるきらいがあるようだ。
私が言うことじゃあないですがね、もう少し部下たちを頼ってもいいんじゃあないですかね」
言えば、一呼吸の逡巡の後に、ふ、と彼は小さく息を吐いた。
「なるほど、肝に命じておこう」
そう言って、出口の布に手をかければ、
「私はいい部下を持ったようだ」
また来る、そう言って彼は姿を消した。
深呼吸をすること一つ、二つ。

「行ったみたいですよ皆さん」
ぶはっ、と息を漏らす声がいくつも、私の背後、
急遽用意された隠れ場から漏れて人影が溢れ出してくると、
口々に圧がやばかっただの、バレてたかな、だのと言い合う。
まったくどちらもこちらも素直に言い合えないものだと思う。
なんの事はない、最後の一言を言ってほしいがために仕込まれた今日の施術だ。
不器用な上司と、その不器用な部下たちの架け橋となること。
それが私の今日の仕事だ。
これもまた私が興味を覚える人生模様と言うやつなわけであった。




2021.05.20 次人執筆/up


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