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施術記録3,大王

私は、コリト。
小さなテントを店舗代わりに各地を転々とする流れの足つぼ師だ。
足とは実に興味深い。
それを見るだけでどこかその持ち主の人生、
その一端を垣間見るような気分になる。
故に私は固定の客を持たず、こうして土地土地を巡っては
新たな人生の有り様との出合いを楽しみながら仕事をしている。

さて、突然だが面倒なことになった。
順を追って話そう。
まず、プププランド、
良く言えば平和だけが取り柄と言われるこの国は、
悪く言えば退屈と暇を持て余すような国であると言うことだ。
そして、私のような、この国にたまさか吹いた微風にも
過敏に反応を示すということでもある。
それはこの国に住むものの大半に言えることであり、
この国を治めている者たちもまた例外ではない。要するに、
この国の長、大王を名乗る人物もまたその一人である、と言うことだ。
うむ、実に面倒なことになった。
その名をデデデ大王。
他国にその名を轟かせる奇人…いや、変人…いやいや、
少々気性の尖ったお方であらせられる。
先刻、その使いを名乗る物が書巻を持って現れた時は耳も目も疑った。
よもや、と思ったが本当に施術を受けに来ると言うのだ。
ああ、面倒なことになった。
果たして私は、無事施術を終えられるのだろうか、
明日には国外追放なんてことにならないことを祈るばかり。

刻限になった。
私のテントの前にはすでにうやうやしく
膝をついた臣下達の花道ができており、
その向こうから、今、
赤い絨毯がそこを歩くべき人物のために道を完成させてきている。

来た。

胸を張り過ぎてやや反り、
重々しい足取りをしようとして体勢を崩しながらやって来る。
その片手にはなぜかハンマー。
本当に何故だ。振り下ろされる先が私で無いといいが。
そうこうしていれば大柄な彼は、もう目の前だ。
国民でも臣下でない私は彼への作法など知らないので、
とりあえずそこの臣下のマネをして頭を下げて見ることにすれば、

「よろしい、頭を上げると良いぞ」
と、低い声がくる。
それに応じ頭を上げて
「ようこそいらっしゃいました。大王様」
告げれば、うむ、と頷いて満足そうに破顔する。
人懐っこく笑う様は、彼が色々なことをしでかしてもなお慕われる由縁なのかもしれない。
どうぞ、と促し、先んじて中へと入ったその背を追って、私は施術の用意に取り掛かる。
と、声が来た。
「時に、ワシはとても偉い大王様だが、なに遠慮する事はない。精一杯励めよ」
傍らにハンマーを置きながら言われても説得力はないが、
そう下手に出ていただけるのはほんのりとありがたい。
「では、よろしくおねがいします」
上手く笑えているかわからないが、頬を引きつらせながら私は、施術に入る。
初手、なるほど、いかにも座っている者といった風情だ、足首周りから全体に浮腫みがあるか。
しかしそれでいて中々に鍛え上げられている、意外にも現役ファイターのようだ。
大王としてではない一面もどこかでこっそり持っているのかもしれないな。
とはいえケアは少々行き届いていないようだ。
理由は、まあ、あまり考えないようにしよう。
さて、ゴリッと行ってみようか。
「ぬがー!貴様!」
「い、痛みましたか!?も、もう少し弱く…」
「ぬ!?いや!それではワシ威厳が保てぬではないか!うむ、遠慮はいらん、続けよ…」
「は、はぁ、では…」

ゴリッ

「ぬわー!貴様!!!」
「おわあ!お、落ち着きましょう!とりあえずそのハンマーを置きましょう、ね、ね!」
「よかろう…よかろう…ぐぬうっ」
ふぅ…ふぅ…うかつにも彼の言い分を鵜呑みにした。
それなりに力を抑えて、威厳を保っていただかねば私の命が危ない。
よし悪くない手応えが

「貴様、手を抜いてはおらんか!さっきの気概はどうした!」
「もっ、申し訳ありません!」
どうしろというのだーーー!
しかし、こうなれば腹をくくる他ない、
大王がハンマーを振り回そうが施術を完遂する…!

「ぬわー!?ぬがー!!」
「ハンマーを持たないで下さい!ハンマーを持たないで下さい!うわー!!」

******************

「はぁ…はぁ…お疲れ様…でした…」
「うむ!大義であったぞ。うむ!」
こんな施術は、もうゴメンだ、割に合わないにも程がある。
もはやどうでもいいが効果はすでによく出ているようで、
晴れやかな顔をした大王は、バシバシと私の肩を叩くと、ハンマーを担いで出ていった。

「つか…れた…今日はもう店じまいにしよう…」

営業中の札を返し、準備中に変えた私は、倒れるように奥の寝床へと身を転がした。

翌日早々に、赤絨毯が再び店の前に道を作って待っていることなど、つゆ知らず。




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