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[ ▶星野 ▶LAL ]
平穏ゆるり

水色の絵の具をこぼしたような青空とこうこうと照り付ける太陽はほぼ頭上の真上に昇り時刻はお昼の時間だ。
当初の予定より少し遅れた為慌てて家を出るシュリルは手に昼食の入ったバスケットを持ち
数日前に知り合った旅人のマターさんに会う為に小走りで彼の元へ向かうのだった。

目的地には既に待ってくれているマターさんの姿が見えた
彼は日光を避けるように日陰に位置する少し大きな岩にただ座り込んでいて
マターさんがちゃんと居てくれた事に安堵し彼のいる方向へ歩いていく。
遠くから私が走ってきた音に気付いたようで
鋭く光るマターさんの目が私に向けられた

「こんにちは、マターさん」
「ああ、シュリルか」

マターさんに対してもどきどきと動悸が音を立てながらも
良かったらこれから私に付き合ってくれませんか?と
少し顔を俯かせてバスケットを両手で握り締めながら言った

「大丈夫だが、何をするんだ?」
「…着いてからのお楽しみです!」

いきなりの誘いに少し驚いた様子だったが
私からのお誘い対してマターさんの低めの落ち着いた声での返事に私は顔を上げ
誘いに乗ってくれたマターさんにお礼を言いながらへにゃりと笑みを浮かべた。

善は急げとはよく言ったもので
ほら、早く行きましょう!と言いながらマターさんの手を引いて
初めて会った時に行った日向ぼっこをした草原ではなく
その反対の方面にある樹木の生い茂るウィスピーウッズのいる森に向かう
紳士さながらにするりと自然な動作でマターさんがバスケットを持ってくれて
やっぱり人は見た目で判断するものではないと再度彼を見ていて思った

「そうだ、マターさん。待ち合わせしてなくてもあそこに居ましたし
 前に早朝に来てもあそこいたりで…夜はあそこで寝てるんですか?」
「睡眠は要らないから近辺にいる。少し遠くにいてもすぐに向かえるからな」
「寝なくても大丈夫って凄いですね…じゃあ夜は何をしているんですか?」

目的地へ向かうまでの会話の中で先程の様子を思い出し
朝から夕方にかけてもマターさんは其処にいるの事、
この人は私と夕方まで一緒にいて別れたあとふと疑問に思い
その疑問を問いかけるとマターさんの目を細めた
何と言うか雰囲気も教えたくない、と言うもの雰囲気から感じ取れた

「あっ!言いたくないなら言わなくても大丈夫ですよ!変な事を聞いてすいません」
「ああ…」

私はマターさんの行動全てを把握したい、となんて思わないし
人に言いたくないことやいえないことなんて誰にでもあって
他人のプライバシーや秘密を無闇に探ろうとしたり守れないやつではない
ましてマターさんと私は恋仲といった特別な関係でもなく唯の友人だ
少しぎこちなく居心地の悪い雰囲気と歯切れが悪くなり眼光が更に鋭くなったマターさんに
シュリルは何とかこの居心地の酷く悪い雰囲気を変えようとなるべく明るく振舞い話題を変えた

「マターさんを連れ出したの、もうお昼ですしマターさんが良ければピクニックしようかと思いまして」
「ピクニック?」
「はい!お外でお弁当を持って御飯を食べるんですよ!其の後日向ぼっこやお昼寝したりして」
「成る程」
「はい!マターさんの事だから食事も必要ない、とか言って食べてないんじゃないかなって思いまして」

そのまま言葉を連れながら笑うとシュリルの言葉に
図星だったのか少しだけ驚いたような様子のマターさんに
胸裏では更にマターさんに対して疑問が生まれる
(この人の構造は本当に不思議だなぁ)

「だからマターさん、一緒にピクニック行きませんか?」
「…私で良いなら」
「もちろんです!マターさんと一緒で嬉しいです!」
「そうか」
「マターさんは御飯を食べる事も初めてかな?じゃあ、ふたつ初めての体験ですね!」

私の言葉に少し嬉しそうなマターさんを見ていると
案外先程の所から森は近いので直ぐに付いてしまい見ることを中断せざる終えなくなる
残念に思いながらもマターさんの片方開いている手を引きながら奥に歩いていく
少しして奥には少し開けた木陰もある良い場所を見つけて
用意したシートを敷いて2人で隣り合うように座った
丁度座った場所が木陰になっている事と暖かな気温と涼しい風が
吹いていてこのまま横になったら寝てしまいそうだ

「はい、マターさん。これはサンドウィッチです」
「すまないな。有難う、シュリル」
「いいえ!色んな種類のものを作ってきたので良ければ沢山食べてくださいね」

マターさんの持っていたバスケットをシートの上に置いて
中身のサンドウィッチを取り出して適当に無難な味のものを渡した
次いでお茶の入った水筒を取り出してコップに注いでこちらも彼の横に置く
どうぞ、と言いつつ笑うとマターさんも
少し微笑むように目を細くして嬉しそうに受け取ってくれた
サンドウィッチの説明をしてそれを聞きながらも口にするマターさんは恐ろしく可愛い
美味しい、とも言ってくれるのでシュリルも嬉しそうに笑った

先程の気まずい雰囲気を感じさせない程の穏やかな空気が流れ
2人で昼食を存分に楽しみながらもシュリルは
マターさんについての疑問も尽きないが
きっと向こうも同じで私に対して疑問を抱いているかもしれない

しかし、こういうやり取りやお互い一緒の時間過ごし出来事を共有して
少しずつこの人を知っていければいいな、と隣に座るマターさんを
ちらりと盗み見ながらシュリルは陽気にサンドウィッチを頬張った


(シュリル、今日は有意義な時間を過ごせた。ありがとう)
(いえいえ!・・・そうだ、マターさん良ければまたピクニックに来ましょうね!)
(シュリルが良ければ、是非ともまた2人で来よう)




2020.05.05 加筆修正
2012.04.08
2012.10.23 書き直し


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