haco

僅か漸進

雨が上がりの後、雲一つなく星々が輝く夜空を見上げると
珍しい月虹が星空に橋を架けていて
その幻想的な光景に目を奪われ暫し見惚れる

が、何故か漠然とした違和感を感じてしまう。
じぃと虹を凝視する事でようやく違和感の正体に気付くことができた

(・・・あれ、色が・・・?)

七色であるはずの虹の色は最初に見つけた時と違って
抜き取られてしまったように色が何色か確認することができない

消えた虹の色、
虹、とは言い難いものに小さく、変貌しつつあった

しかし、この不自然な現象をシュリルには如何する事も出来ず、
ただ胸がざわつきを感じながらそっと虹から目を逸らした

(うーん…大王様かカービィに話してみようかな…)

この2人ならこの事案に対して何かしら対処をしてくれるかもしれない
なんてことを胸裏で思いながら目的の場所へ足をすすめる
そうだ、不自然な虹のことをマターさんとの会話のネタにでも話してみようかな、
そこまで考えて、恐る恐るもう一度あの虹に顔を向けた

あの虹はいつの間にか消えていた

ただ、漠然とした不安と恐怖を拭うことが出来ず
むしろそれらが倍増していくような錯覚に落ちる
が、それに気付かない振りをしながら
シュリルは雨上がりのせいで所々に出来た道の泥濘に
足を取られないようにしながらも歩みをすすめた

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「・・・あれ、マターさん・・・?」

昨日の昼間に良かったら今日は流星群だから一緒に星を見よう、という約束の為に
色々下準備をして、いざ迎えには来たものの
何時もであればここに居る筈のマターさんの姿が見えず
シュリルはきょろきょろと見回した後に目線を地面に向けた

(もしかして・・・約束忘れちゃったのかな)

いつもの待ち合わせには自分以外の人物の気配すらしない
しばらく待ってようと通行の邪魔にならない場所に座りこむ
待ちぼうけの中だからか、先程の虹をぼんやりと思い浮かべた

「シュリル」
「…あっ!」

頭上から不意に声を掛けられた
目の前の探し人の声でようやく思考を中断して顔を上げる
探していた人で彼は私をただじっと見つめていて
急いでマターさん、と声を掛けようとするが

「・・・っ!」

どくり、と先ほど感じた不安と恐怖が蘇り
更には嫌な予感が胸をよぎり 嫌なほど心臓の早鐘が聞こえる。
このままだとマターさんにまで聞こえてしまうのではないかと思ってしまうほどに

「シュリル…こんな所に座り込んでどうしたんだ」
「……昨日の約束したから待っていたんです。」
「一緒に星を見る、だったな」
「はい…、」

語尾が途切れてそのまま黙り込んでしまう
マターさんと言葉を交わしたおかげかだいぶ落ち着いたが
暗く沈み込んでしまいそうな思考を叱咤するよう頭を振る。
喧嘩をしたわけでも無いのに、ほんの少しだけ気まずく感じる空気の中
マターさんがシュリル、と呼んで私の手を引いて立ち上がらせてくれた
その声は酷く優しい

「シュリル行こう。…先程星がよく見える場所を見つけたんだ」
「…わぁ、本当ですか?」

言葉をそのままに手を引かれて歩き出す
シュリルの前を歩くマターさんをじっと見つめる
だいぶ落ち着いたと言えど先ほどの嫌な感じはじっとりと体に纏わり付いたままで、
マターさんはきっと私の様子が可笑しい事に気付いているかもしれない
そう考えるとそれが非常に申し訳なく感じて

それらを誤魔化す様に表情を引き締めて
引かれる手の先のマターさんをちらりとみると
マターさんも少し振り返り私を見た

「本当の事を言うと、忘れたかと思っていた」
「何をですか?」
「今日の約束の事だ」
「やだなぁもう!忘れるわけないじゃないですか〜」

彼は彼で私の方が約束を忘れているかもしれないと思っていたようだった
何だかんだで同じ事を考えていたのか、と小さく笑う

そんなシュリルを見てマターさんは足を止めた拍子で手も離れてしまう
離れたぬくもりがほんのちょっと残念に感じてしまうが
マターさんは何処か安心したように目を細めてだが、と声に出す

「今日はこの時間まで一度も私の元に来なかっただろう」

シュリルと目線を合わせてマターさんは何でも無い事の様に平然と言い切る
この言葉にシュリルは呆気に取られ

「来れなかったのは今日の準備をしていたんですよ」
「なら致し方あるまい。だが、」

「シュリルの顔を見れて安心した」

惜しげもなく言われたら恥ずかしいその言葉にシュリルは自分の顔が赤くなるが分かった
マターさんは天然たらしなのか!!そう内心で叫ばずにいられない
その雰囲気は別として容貌と相まって破壊力が凄まじく
マターさんの顔を見ることが出来ず目線を無理矢理逸らす

その言葉になにも言えなくなり俯き顔の真っ赤な私とは反対に
マターさんはあっさりとした様子で淡々としていて

そんな私を気にもせずマターさんは歩き始めた
シュリルは我に返ったように今度は隣につく
この人はやっぱり色んな意味で心臓に悪い

しかしこの事であの不自然な虹についてはすっかり
頭から抜け落ちマターさんにすっかり話せないのまま
マターさんの案内のもと星のよく見える場所へ向かう事になった

この時花影が不穏に揺れていた事
胸裏をちらりと霞む嫌な予感にも気付く筈も無く
シュリルはダークマターと共に星を眺め
会話は少ないながらも談笑しつつ夜を明かしたのだった


(やっぱりマターさんの星は見えないですね)
(ああ、分かっていたがな)
(残念です)




2020.05.05 加筆修正
2012.05.06
2012.11.11 書き直し

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since,2011.01.01~2020.01.01 / 野箱