まだまだ半袖でも過ごせるが、日に日に秋が深まる気配を感じるようになった。家を出てくるときに見たテレビの天気予報では、明日はとても冷え込むらしい。一昨日はうんと暑かったのに、よくわからないものだ。そろそろ衣替えもしないといけないのに、こんな気候ではなかなか踏ん切りがつけられない。
「お花、たくさんありがとう」
「なに、これくらい当たり前だろうよ」
トクサネの外れにある墓地。その一角に、真新しい墓石がある。ここらでは少し珍しい形になってしまったが、イッシュの文化を尊重した結果だ。なだらかなカーブの長方形の真っ白な石板には、僕の一番愛しい人の名前。
天使の羽にも負けずに白く煌めくこの石がいいと思ったのだ。まるで彼女の心のようで。手を合わせて、花を飾る。彼女の墓はいつも色とりどりの花に囲まれているので、きっとお彼岸の頃には目印にしやすいことだろう。
「…一人じゃないとは思ってるよ。だって、思い出は絶対になくならないからね。でも、もう勘違いはしていないよ」
「……そうか」
「思い出と一緒に生きていくことと、思い出に閉じ籠って生きていくことは全く違うからね」
ミクリはほっとしたような顔をして、僕を見た。ミヤコからの手紙を渡すか渡さないか、渡すならどう言って渡すべきかと、彼はずっと悩んでいたのだとあとから教えてもらった。僕とミヤコは本当に良い友人に恵まれたと思う。ここまで真摯に悩み、共に考えてくれる友人になどそうそう出会えるものではない。彼がいなければ、僕はずっと勘違いしたままに、ミヤコだけでなく彼のことも傷つけていただろう。
「ミヤコもそれを聞いてほっとしただろう」
「だといいな。ずっと心配させてしまっただろうから」
自覚はしていたけれど僕は割と変わっている人間なので、こんな僕を思ってくれる女性は少ない。というより、今のところミヤコくらいしか居らず、僕は相変わらず一人身のままである。彼女はかつて、僕がまた別の誰かと結ばれたら僕の子供に生まれてしまえばまた会えるだなんて言って笑っていたらしいが、まだまだそんな相手は現れる気配がない。もしかしたら早く早くとミヤコは僕を急かしているかもしれないが、ミヤコのような素敵な変わり者にはなかなか恵まれないので、彼女に会うとすればたまに落ち込んだとき、ふと思い出を振り返る時である。
「安心して、見守っててやってくれよ」ミクリがそっと呟いた。
きっといつかまた僕らはしっかりと会えるだろう。それがいつどこでどんな形になるかはわからないけれど、僕がミヤコの思い出を抱えている限りはまた必ず会えると信じている。その日がいつ来てもいいように、僕はしっかりと背筋を伸ばして生きていかなければならない。
色とりどりの花に囲まれ、きらきらと細かく煌めく真っ白な御影石。そこに刻まれた、彼女の一番好きだった詞を心の中で読み上げる。それはいつの間にか、僕の一番好きな詩にもなっていた。
“ひとが息をし、目がものを見る限り、この詩は生きて、あなたに命を与え続ける”───彼女が愛したこの詩が載った小さな本は、今もしっかり僕の文机の端に並んでいる。
So long as men can breathe or eyes can see, So long lives this, and this gives life to thee.
ALICE+