消化出来ない寂しさが心の中に渦巻いて消えない。目まぐるしく変わる情報の波に溺れてみても、誰も自分を見ていないんだと言うことを実感して余計に辛くなる。何もかも切なくて寂しくて人恋しい。
その日はそんな夜だった。
箱型の便利な道具があるというのに、私は自分の悲しみひとつ慰められない。
そんな自分にも嫌気がさしていた時、小さく電話の着信音が鳴った。
こんな時間に突然の電話。少しだけ非常識だなぁと思いつつもその薄い画面を覗き込めばたちまち私の心は驚きに染め上げられてしまう。
私を急かすかのようにブルブルと振動するスマートフォンを今一度持ち直すと、恐る恐る私は応答のボタンを押した。

「──もしもし」

電話越しから響いてきたのは、甘く緩やかで夜の空気に溶け込みそうな里津花の声。その声を聞くだけで沈んでいた私の心はふわりと浮かび上がる。
久しぶりに聞いたその声に思わず胸がいっぱいになり、返そうとした言葉は喉元で音にならずに消えてしまった。

「名前?」

こちらが何も言わないのを不審に思ったのか、彼はその柔い声で私の名前を呼ぶ。
耳元に届くその声はいつも優しい。

声を聞いた瞬間、「会いたい」と思った。頭の中でスパークするように、会いたい気持ちですべてが覆われてしまう。
そのせいだったんだろう。思わず口をついて出たのは「会いたい」の四文字。

電話越しに彼が息を呑んだのが分かった。

そうだ、分かっていたのだ。彼と自分の生きる世界が違うことも、彼が忙しいのに自分なんかに時間を割いてくれていることも。
わがままを言ってごめんなさい。そう言おうと再び口を開こうとした時だった。

「──ずるいよ……」
掠れたような彼の声が耳元で鳴った。

「一日中君のことを考えていて、今の電話だって夜中だから迷惑かもしれない、なんて思いながらかけたのにそんな可愛いこと言われちゃうなんて……」
吐息混じりの声が柔らかく耳朶をくすぐっては私の心をぎゅっと締め付ける。
「……俺、明日は一日オフなんだ」
──ねぇ、今から行ってもいい?
声に出さなければ向こうには伝わりやしないのに、つい頷きながら私は小さく、いいよ、と答えた。
「──待ってて」
その声で、寂しさに染められていた心が淡い桜色に染められていく。それはきっと幸せの色だ。