Melt
暑い。溶けそう。
月並みな感想を浮かべては、初夏の暑さにへばる私はぐったりと机に体をもたれかけた。
先日までは桜色が辺りを彩っていた軽やかで少し寒さの混じる季節であったというのに、今ではすっかり鮮やかな緑が溢れ、少し湿気を含んだ風が吹くようになっている。
窓越しに差し込む光は些か暴力的にすら思えるほどで、その場から逃げてしまいたくなる。しかし初夏の暑さは移動する意思すら奪ってしまうほどだった。
──カラン。
重さを感じるような空気が漂う中で聴こえた、全てを一掃してしまいそうなほど軽やかで澄んだ音。
その音に意識をふっと呼び起こされ、私は重い頭をそっと持ち上げた。
ゆっくり開いた瞳に映ったのは、柔らかな亜麻色の髪を風になびかせて佇む柊羽の姿だった。暑さを一切感じていないかのように涼し気な様子でこちらを見つめた彼は小さなトレイを片手に抱えると優しく笑う。
「……おはよう。アイスティーでもどうだ?」
彼が抱えたトレイの上には、淡く澄んだ琥珀色に満ちた細いグラスが夏の木漏れ日の中で柔い光を帯びている。
「……柊羽!」
ほんの少しばかり机にもたれかかっていたのを眠っていたと思われたのだろうか。こちらを甘くからかうような声が聞こえ、私は思わず弾んだ声を上げた。それと共に彼の持つグラスの中の氷がカラリと明るい音を立てる。
単純に冷たい飲み物が嬉しいこともあり、私は喜んでアイスティーを受け取った。
律儀に家で振る舞うアイスティーにもストローを差すのだから恐れ入る。ストローで軽く波を立てるたびにカランカランと小さな音がした。
テーブルを挟んで向かい合う位置の椅子に彼は腰掛けると、優雅に長い指でストローを支えてアイスティーを口に含む。
私も真似をするかのようにストローをくわえ、するりと飲み込んだそれはひんやりと冷たい。たちまち立ち込めていた体内の熱を緩やかに冷ましていき、喉を通る度に生き返るかのような心地になった。
すっかり飲み干してしまい空になったグラス。コトン、とそれを置いてごちそうさまでした、と告げると彼はほんの少しだけ困ったような顔をした。
珍しい彼の表情に首を傾げると、彼は静かにこちらに近寄った。驚きで固まった私の瞳が捉えたのは、薄い膜が張ったように蕩ける氷、薄花色。唇に触れる柔い感触と熱に、ようやく涼しくなった体がぶり返すように熱を孕んだ。
「……悪い。あんまりにも美味しそうだったんで、な」
……あつい。溶けそう。
どろりと輪郭ごと歪んで溶けてしまいそうな熱の中、薄氷のような彼の瞳だけがやけにゆらりと輝いていた。