久しぶりに君に会えるから特別なおもてなしをしたい。そう思ったのは確かだった。

そんな時不意に思い出したのは、少し前に父から届いたフランス土産のローズシロップ。
母と二人して仲良く母国に帰る度に、何かしらのお土産を送ってくるのでその度彼女に振る舞うことが多かった。

そして彼女が家に来るその日、俺はカウンターテーブルに彼女をエスコート。その向かいに立つと、カウンターテーブルを挟んで彼女の顔がはっきりと見えるのが少しむず痒くも愛おしくもあった。
肘をついて興味深々と言った様子でこちらを見つめる瞳は澄んだ輝きに満ちていて、思わずクスリと小さく笑みをこぼすと、俺は彼女に振る舞うローズソーダの準備を始める。
つるりと細長いグラスを二つ、その隣にはローズシロップとソーダ、そしてマドラー。

グラスの底に薄く注いだ薔薇色がソーダの中でゆらりと溶け、混ざる。ふわりと立つ香りに、彼女がすんと鼻を鳴らし目を閉じるのが見えた。
小さく吠えた獣を鎮めて何でもないようにグラスを差し出せば、彼女は宝物でも見つめるかのように瞳をきらきらと輝かせる。

あぁ彼女のこういう所を好きになったんだったね。
誰に言うでもなく、思い出したようにふと浮かんだ思いになんだか嬉しくなって俺は小さく口元を緩めた。
あんまりにも夢中で幸せそうにローズソーダを飲むものだから、自分まで幸せになってしまう。

こうしてふわふわとしたその感情に身を委ねていたものの、そんな優しい鎖では内に棲む獣は縛れない。知らず知らずのうちに彼女の艶やかな唇、柔い薔薇色に瞳を奪われていた。

ぷつり、解けた理性に手網を握ることを放棄し、そのシロップよりも甘い薔薇色にそっとくちづける。
ふわりと香ったのは先程飲み干した薔薇の甘露。

彼女の細い手首をそっと掴んで、甘さに酔いしれていると視界の端で薔薇色に満ちたガラス瓶がゆらりと輝いた。

ねぇ、今度その香りを感じた時、そしてその甘さをもう一度味わった時、きっと俺のことを考えるでしょう?

とろりと滴ったシロップ。指についたそれを舐めると深く甘い薔薇の香りが部屋をそっと満たしていった。