ふゆのひ
とっぷりと夜が更けた頃、明かりの少ない帰路を急ぐ。疲れや悩み、重たい気持ちも吐き出すように吐いた溜息。冴え冴えとした冷たい空気の中、白く煙っては漆黒の空を微かに覆った。
冬の始まりを告げるような冷たい風が吹き始めた頃、そっと見上げた夜空には微かな星々がちりちりと瞬く。ふと私はその輝きに、久しく会えていない彼のことを重ね合わせた。
世話好きで面倒みが良く、大抵のことは器用にこなす。それでいてたまに不器用で、でも確かな輝きと熱を与える人。
会いたいなぁ。
胸の内で考えていたはずの言葉は、知らぬ間に声となって零れ落ちていた。
残念ながら零れた言葉は砂埃の立つ乾いた地に転がるばかりだったが。
きんと冷えた風に吹かれ、寒さに身を震わせた私は、闇に柔らかく浮かぶ光に吸い寄せられるようにそっと自動販売機の方へと近寄った。
ガコン、と音を立てて落ちたのは温かい缶入りのココア。疲れた時には甘いもの、とはよく言うがその言葉通り、一口その甘味を啜る度にじんわりと脳が緩んでいくのを感じる。
その甘さと温かさに癒され、思わずほぅと息を吐いた。
ゆるりと脳まで緩むような癒しはたった130円で手に入るが、乾いて冷たくなった心の癒しは一体幾らで手に入るのか。冷えた指先を温めるようにぬるくなった缶をぎゅっと握りしめるものの、大した熱は得られずに風がそっと頬を撫でるだけ。
早く家に帰らなくては、と思うのに真っ暗な部屋を思い出すだけでその場から動くことすら億劫だった。
そんな時、途端に目の前が眩しく光ったような。そんな気がした。
眩しさに目を眇めては、何度も瞬きを繰り返す。己の目に映るその像を信じられぬまま、私は手に持っていた缶が重力に逆らわず落ちていくのをぼんやりと眺めていた。
「名前!」
――あぁその声は。
思考する暇もなく導き出された答えは一つ。
目の前で輝いていたのは見紛うことなきエメラルド。カーディナルレッドの髪が夜でも不思議と目立って見える。
驚きから何も言えず、ただその場に突っ立っていると、冷えた頬を包むように、あたたかな彼の手が添えられた。
「冷たっ!お前どれだけ外にいたんだよ……」
そう言って彼は眉尻を下げ、少し呆れたように笑った。その笑顔からはまるで夜空に瞬く星々が零れているかのよう。
その笑顔が、その大きな手が、あまりにも温かくて私は心が小さく震えるのを感じた。
気づいた時には熱が頬を流れ、夜風に吹かれて瞬く間に冷えていく。
私の頬に手を添えていた彼は、零れた雫に少しだけ驚いて目を見開いたものの、すぐに労わるような優しい笑みを浮かべた。
「大丈夫だぞー…… お前は毎日頑張ってる。偉いよ。」
耳元に囁きかける声は低く甘い。温かくてほろりと心まで溶ける言葉は、先程飲み干したココアと比べる由もないほど甘かった。
冬の始まりを告げるような冷たい風が吹き始めた頃、そっと見上げた夜空には微かな星々がちりちりと瞬く。ふと私はその輝きに、久しく会えていない彼のことを重ね合わせた。
世話好きで面倒みが良く、大抵のことは器用にこなす。それでいてたまに不器用で、でも確かな輝きと熱を与える人。
会いたいなぁ。
胸の内で考えていたはずの言葉は、知らぬ間に声となって零れ落ちていた。
残念ながら零れた言葉は砂埃の立つ乾いた地に転がるばかりだったが。
きんと冷えた風に吹かれ、寒さに身を震わせた私は、闇に柔らかく浮かぶ光に吸い寄せられるようにそっと自動販売機の方へと近寄った。
ガコン、と音を立てて落ちたのは温かい缶入りのココア。疲れた時には甘いもの、とはよく言うがその言葉通り、一口その甘味を啜る度にじんわりと脳が緩んでいくのを感じる。
その甘さと温かさに癒され、思わずほぅと息を吐いた。
ゆるりと脳まで緩むような癒しはたった130円で手に入るが、乾いて冷たくなった心の癒しは一体幾らで手に入るのか。冷えた指先を温めるようにぬるくなった缶をぎゅっと握りしめるものの、大した熱は得られずに風がそっと頬を撫でるだけ。
早く家に帰らなくては、と思うのに真っ暗な部屋を思い出すだけでその場から動くことすら億劫だった。
そんな時、途端に目の前が眩しく光ったような。そんな気がした。
眩しさに目を眇めては、何度も瞬きを繰り返す。己の目に映るその像を信じられぬまま、私は手に持っていた缶が重力に逆らわず落ちていくのをぼんやりと眺めていた。
「名前!」
――あぁその声は。
思考する暇もなく導き出された答えは一つ。
目の前で輝いていたのは見紛うことなきエメラルド。カーディナルレッドの髪が夜でも不思議と目立って見える。
驚きから何も言えず、ただその場に突っ立っていると、冷えた頬を包むように、あたたかな彼の手が添えられた。
「冷たっ!お前どれだけ外にいたんだよ……」
そう言って彼は眉尻を下げ、少し呆れたように笑った。その笑顔からはまるで夜空に瞬く星々が零れているかのよう。
その笑顔が、その大きな手が、あまりにも温かくて私は心が小さく震えるのを感じた。
気づいた時には熱が頬を流れ、夜風に吹かれて瞬く間に冷えていく。
私の頬に手を添えていた彼は、零れた雫に少しだけ驚いて目を見開いたものの、すぐに労わるような優しい笑みを浮かべた。
「大丈夫だぞー…… お前は毎日頑張ってる。偉いよ。」
耳元に囁きかける声は低く甘い。温かくてほろりと心まで溶ける言葉は、先程飲み干したココアと比べる由もないほど甘かった。