Flower
月永さんは時々花を持ってくる。それは豪華な花束だったり、時には鉢植えに植えられた観葉植物だったり。花屋に行く姿があまり想像出来ない上に、本人の口から何度か「貰った!」と聞いているので、間違いなくその大半は貰い物だろう。
今日彼が腕に抱えて持ってきたのは、小さな鉢植え。白くて丸みを帯びた陶磁器の鉢植えには、オレンジ色のガーベラと真っ白な鈴蘭が植えられている。
少し不思議な取り合わせだが、それぞれの花の美しさと色合いのお陰か案外相性は良さそうに見えた。
彼は日光がよく当たる窓辺にその鉢植えを置くと、えらく機嫌が良さそうに鼻歌を歌いながらジョウロで小さな雨を降らせた。
きっと今までに聴いたことのないメロディだから、これは次の新曲だろう。歌のテンポが速まると共に、オレンジ色のしっぽがぴょんぴょんと軽く跳ねた。
トパーズの破片を散りばめたような太陽の光がそっと窓から差し込み、彼の横顔を照らす。その光景はまさに幸福というもの、そのものだった。
それからしばらくして、私たちは互いにその花に水やりをすることに決めた。月曜日は月永さん、火曜日は私、その次は月永さん。と、こんなふうに。
一日おきにでも水やりのために花を見ていれば、その変化はすぐに分かった。
日に当たってすくすくと伸びていたのは、家に持って帰ってきてからたった数日間のこと。それ以降は悲しいかな、何故か花びらは萎れ、茎はふらふらと弱々しくなり、明らかに弱ってきていることは確かだった。
私は音もならないような弱々しい鈴蘭の花にそっと触れる。白く丸い妖精のドレスのような愛らしいそれは、萎れてあまりにも力を失っていた。
……私みたいだ。
燦然と咲き誇るガーベラの隣で、萎れかけている鈴蘭。花に自分を重ねることはあまりにも烏滸がましいけれど、どうしても重ねて見ずにはいられなかった。
彼から降り注ぐ愛を上手く受け止められず、そして彼の世界に上手く溶け込むこともできずにひっそりと萎れてしまう自分と。
同じ鉢植えで生きられないのならば茎からちょきんと切って、花瓶に活けてしまおうか。そうすればきっと二輪の花は共に同じ水を吸って、同じ時間を生きていられるはずだから。
そう思って鋏をそっと取り出すと、彼は静かに首を横に振った。
いくらそれが最適解に見えても、それは自分たちのエゴでしかない。そう言うように彼は私の手からするりと鋏を奪い取る。そして鋏の代わりに小さなスコップを手に取ると、鉢植えの土にやさしくそれを突き立てた。そして根元まで傷つけぬように掘り出した鈴蘭をそっと取り出すと両手で柔らかく包み込んだ。愛おしいものを見るように、彼は手の中の花に甘い瞳を向ける。
「……名前、そこにあるから鉢取ってもらっていい?」
彼の横顔にぼんやりと見惚れていた私は彼からの声にハッと顔を上げると、彼の指さした先に視線を向けた。
そこには半円型の鉢植えが二つ。私はそのうちの一つを手に取ると、彼の元にそっと差し出した。
「……ん、ありがと」
にっと細められたエメラルドに、不覚にも心臓がきゅっと締め付けられる。私がそんなふうに心をときめかされているのも露知らず、彼は黙々と新しい鉢植えに鈴蘭を移しかえた。そしてもう片方の鉢植えも、と催促すると元の植木鉢に残ったガーベラをもう一つの半円型の鉢に植え替える。
「できた!」
パンパンと手についた土を払いながら、彼は楽しげに声を上げた。そしてその二つの鉢の平らな面を合わせると、満足げに笑う。
「これなら二つで一つになれるだろ?」
……そういうところがずるいんですよ。
言葉は一片の涙に飲み込まれ、ぽろりと頬を零れ落ちたのだった。
今日彼が腕に抱えて持ってきたのは、小さな鉢植え。白くて丸みを帯びた陶磁器の鉢植えには、オレンジ色のガーベラと真っ白な鈴蘭が植えられている。
少し不思議な取り合わせだが、それぞれの花の美しさと色合いのお陰か案外相性は良さそうに見えた。
彼は日光がよく当たる窓辺にその鉢植えを置くと、えらく機嫌が良さそうに鼻歌を歌いながらジョウロで小さな雨を降らせた。
きっと今までに聴いたことのないメロディだから、これは次の新曲だろう。歌のテンポが速まると共に、オレンジ色のしっぽがぴょんぴょんと軽く跳ねた。
トパーズの破片を散りばめたような太陽の光がそっと窓から差し込み、彼の横顔を照らす。その光景はまさに幸福というもの、そのものだった。
それからしばらくして、私たちは互いにその花に水やりをすることに決めた。月曜日は月永さん、火曜日は私、その次は月永さん。と、こんなふうに。
一日おきにでも水やりのために花を見ていれば、その変化はすぐに分かった。
日に当たってすくすくと伸びていたのは、家に持って帰ってきてからたった数日間のこと。それ以降は悲しいかな、何故か花びらは萎れ、茎はふらふらと弱々しくなり、明らかに弱ってきていることは確かだった。
私は音もならないような弱々しい鈴蘭の花にそっと触れる。白く丸い妖精のドレスのような愛らしいそれは、萎れてあまりにも力を失っていた。
……私みたいだ。
燦然と咲き誇るガーベラの隣で、萎れかけている鈴蘭。花に自分を重ねることはあまりにも烏滸がましいけれど、どうしても重ねて見ずにはいられなかった。
彼から降り注ぐ愛を上手く受け止められず、そして彼の世界に上手く溶け込むこともできずにひっそりと萎れてしまう自分と。
同じ鉢植えで生きられないのならば茎からちょきんと切って、花瓶に活けてしまおうか。そうすればきっと二輪の花は共に同じ水を吸って、同じ時間を生きていられるはずだから。
そう思って鋏をそっと取り出すと、彼は静かに首を横に振った。
いくらそれが最適解に見えても、それは自分たちのエゴでしかない。そう言うように彼は私の手からするりと鋏を奪い取る。そして鋏の代わりに小さなスコップを手に取ると、鉢植えの土にやさしくそれを突き立てた。そして根元まで傷つけぬように掘り出した鈴蘭をそっと取り出すと両手で柔らかく包み込んだ。愛おしいものを見るように、彼は手の中の花に甘い瞳を向ける。
「……名前、そこにあるから鉢取ってもらっていい?」
彼の横顔にぼんやりと見惚れていた私は彼からの声にハッと顔を上げると、彼の指さした先に視線を向けた。
そこには半円型の鉢植えが二つ。私はそのうちの一つを手に取ると、彼の元にそっと差し出した。
「……ん、ありがと」
にっと細められたエメラルドに、不覚にも心臓がきゅっと締め付けられる。私がそんなふうに心をときめかされているのも露知らず、彼は黙々と新しい鉢植えに鈴蘭を移しかえた。そしてもう片方の鉢植えも、と催促すると元の植木鉢に残ったガーベラをもう一つの半円型の鉢に植え替える。
「できた!」
パンパンと手についた土を払いながら、彼は楽しげに声を上げた。そしてその二つの鉢の平らな面を合わせると、満足げに笑う。
「これなら二つで一つになれるだろ?」
……そういうところがずるいんですよ。
言葉は一片の涙に飲み込まれ、ぽろりと頬を零れ落ちたのだった。