「はぁ〜もふもふ……かわいい……幸せ……」
そう言ってぎゅっとお気に入りのゆるキャラを抱えた彼は、とろけるように幸せな笑みを浮かべた。

彼が抱えているのは「ベリーハッピーちゃん」といういちごなのか何なのか、なんとも言えないゆるキャラのぬいぐるみ。今日はこのゆるキャラがとあるカフェとコラボをしている、とのことで珍しく彼からのお誘いだったのだ。
白い壁と木目調のテーブル、明るい色を基調とした店内に散らばる赤色。
広い店内には、彼の大好きなゆるキャラのぬいぐるみがあちらこちらに置かれている。

薄い翠色の瞳が細められ、いつもの脱力したやる気のない様が嘘のよう。彼がぬいぐるみに顔を埋めると共に、ふわふわと胡桃色の髪が揺れる。

珍しい彼の幸せそうな姿に、私は思わずくすりと笑みをこぼす。そして机を挟んだ向かいで揺れるその柔らかい髪を優しく撫でた。

「嬉しそうだね?……楽しい?」

答えの分かりきった問いかけ。それでも何故か彼に問わずにはいられなかった。

「……はい!もちろん!」

目をキラキラとさせてこちらを見つめるその姿は、まるで小さな子供のようで本当に可愛らしい。

「ね、ここコラボメニューもあるんだって。何か頼まない?」

そう言ってメニューを指先でトントンと軽く叩いて指し示せば、より一層彼の表情がぱぁっと明るくなる。

「えぇっ……『ベリーハッピーちゃんのふわふわパンケーキ』に『ベリーハッピーパフェ』……!? どうしよう……可愛い……全部食べたいけどお金足りるかな……あぁでも可愛くて食べられない……」

はぁ……と悩ましげにため息をつき、彼はじっとメニューの写真を見つめる。肘をつき、真剣に悩む姿も愛らしいものだ。

「じゃあ、両方頼んで半分こしよっか」
「……いいんですか!?」

へにゃりと下がっていた眉が途端にぴんと上がり、再びその翠色の瞳がぱっと輝く。

ほんとに好きなんだなぁ、と微笑ましく思いながらも私の心にはほんの少しだけ暗雲が立ち込めていた。

「仕事と私、どっちが大事なの!?」という質問のように、「ゆるキャラと私、どっちが好きなの!?」なんて不毛で大人気ない質問はしたくはない。けれどほんの一瞬頭をよぎるのだ。もっと私にもゆるキャラに向けるくらいの愛を見せて欲しいのだと。
言葉にするのも躊躇われるような、小さくて面倒な心を持て余す。

そりゃあ、照れてどぎまぎしている君を見るのも好きだけどね?

少しだけそんな想いを持ちながら私がじっと彼を見つめると、彼は不思議そうに小首を傾げた。
その姿はまるで大型犬のよう。なんだか可愛くて、私は小さく笑う。

「何でもないよ。さてと、注文しちゃおうか」

そう言って私は呼び鈴を押す手に力を込めた。その音で全てをかき消してしまえることを期待するように。

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「はぁ……幸せ……」

うっとりとした表情と声は、目の前のパンケーキとパフェに注がれている。食べるのがもったいない……と呟きながら、何度もシャッター音を響かせる彼に、私はいそいそとフォークやスプーンを用意する。

「早く食べないとアイス、溶けちゃうよ?」

その言葉にハッとしたように彼は写真を撮っていた手を止めると、スプーンを受け取り、パフェの上でうろうろと彷徨わせる。
どこから食べようかと迷っているのだろう。

「はい、あーん」

ストロベリーアイスを掬い、彼の口元にそっと差し出せば彼はただでさえ大きな瞳を一際大きく見開いた。

ほら、溶けちゃうよ。そう視線で伝えれば、彼はおずおずと口を開けてこちらに顔を寄せた。伏せた睫毛は長く、通った鼻梁は高い。この顔で元々はアイドル科志望じゃなかっただなんて信じられないくらいだ。

ぼんやりとそんなことを考えていれば、ふわり開いた瞳と視線がかち合う。

「お、美味しかったです……」

赤く染まった頬、ほんの少し動揺して泳ぐ瞳。そんな姿が可愛くてクスリと笑みをこぼせば、仕返しかなにかのようにアイスクリームが乗せられたスプーンを口元に差し出される。

「名前さんも、どうぞ……!」

溶けたアイスが滴る様から、微かな手の震えが伝わる。躊躇うことなくそれを美味しくいただくと、可愛い恋人の反撃にしっかり乗ってやったのだった。

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「今日はありがとうございました……!」

夕暮れの空を背景に、満面の笑みを浮かべる彼。長身の彼とそれより小柄な私では舗装された道路に伸びる影の長さも違う。

「あ、そう言えば言い忘れてたんですけど……」
「ん、何?」

くるりと振り向けば、彼はまるで王子様のようにさらりと私の片手をすくい上げる。

「これ、俺の色ですよね」

そう言ってするりと撫でられたのは、パールグリーンのマニキュアを塗った爪。

気づいていたのか。思わず何度も瞬きを繰り返すと、彼は照れたように口元を隠した。

「……嬉しかったです」

すくい上げた私の手を握る彼の掌にきゅっと力が込められる。そのまま彼は大きな掌で私の手を包むように握ると、夕陽にくっきりと照らされる綺麗な笑顔を向けた。