「しゅーうー」

間延びした声で名前を呼びながら私は足元の毛布の塊をつんつんとつついた。

床の上には所構わずに撒き散らされた衣装のデザイン画。クーラーのひとつも付けずに手芸部の部室に篭もり、毛布の中にくるまっているところを見ると新たな衣装のデザイン案を考えているのだろう。

いつもならば無闇に邪魔をすることは無い。しかし今日は彼がこの状態になってとうとう三日目。不安から、みかも何度か声をかけてはいたものの宗は一切それに取り合うことがなく、ほとほと困ったみかは半分泣きつくようにして私の元へ駆け込んできたのだった。

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「……しゅーうー」

毛布にくるまった彼の隣にそっとしゃがみこむと、私は小さく名前を呼んだ。流石に風呂や食事はとっているとは思うが、いくらなんでも三日間このままというのはそろそろ限界だろう。可愛い後輩からも心配の声が聞こえているのだし、この状況から早く脱してやらなければ。

「ねーえ、そろそろ出てこない?クロワッサン買ってきたよ?」

片手に持った購買で買ったパンの袋を揺らし、カサカサと音を立てるが、何も反応はない。

「みかちゃんも心配してるよー?」

今度は後輩を持ち出して揺さぶりをかけようとするものの、またもや無反応。
これだけ言っても反応が無いということは、恐らくかなり集中していてこちらの声が届いていないのだろう。そう考えるものの、久々に彼に会えると思っていた心は素直に納得してくれず、私はそっと彼の隣に座り込んだ。

「……あーあ、寂しいな」

ポツリとこぼした声は静かな部屋の中、そっと壁に吸い込まれて響くことなく消えていく。ふぅと息を吐き、そっと顔を上げると色とりどりの布やリボンが仕舞われた棚がふと目に入った。
人が二人もいるというのに、何と静かな場所なのだろうか。賑やかなのは彼の作り上げた衣装、それとその材料だけに見えた。

そんな時、突如視界が闇に染まり、ぐいと力強く腕を引かれた。

「なっ……!?」

何!?と続くはずの唇はふわり塞がれ、甘く焦がれた熱に触れる。柔い熱は触れるだけかと思いきや、貪欲な舌が差し込まれ、追い求めるように絡んだ。ぴちゃりと水音が暗闇の中立ち、否応なしに蕩けさせられていくのを感じる。離れた二人を繋ぐ銀糸がぷつりと切れ、狭い毛布の中、二人して荒い息を吐く。

突然の行動に目を白黒させながらも、二人の近さと熱が目眩のようにくらくらとさせた。
はぁ、と溶けそうな吐息を漏らせば、次の行動を期待する。
しかし彼はそっと肩に手をかけると、瞳を爛々とさせて力強く微笑んだ。

「良い案が浮かんだ。……感謝する!」

そう言って彼は毛布を勢いよくどこかに投げてしまうと、スケッチブックに迷いなく筆を走らせ始める。

ぽかん、としてしまったのは私の方である。
さぁどうやって灯した熱の代償を取らせてやろうか。

数時間はこのままであろう彼を横目にちらりと眺めながら、私は小さく肩を竦めた。