ふわり、ふわり。夢と現の境界を漂いながらぼんやりとした感覚に身をゆだねていた午前二時。唇にそっと誰かの指先が触れた。
するりと唇を撫でるように滑らせた指先は、夜の風に冷やされたのか少し冷たい。
微睡みの中、頬を撫でられる感覚を甘受していると、低くも柔らかな声がとぷりと耳元に注ぎ込まれた。

「……愛しているよ」

レースのように繊細な声は糸が絡んで解けなくなるようにそっと私の心を縛る。浅い意識の中、あぁ彼だ、とぼんやり認識した私はほんの少し緊張していた体からそっと力が抜けるのを感じた。

薄闇の中、瞼をそっと上げれば彼の白い肌が窓から差し込む月光に照らされてさらりと光を纏う。月夜に照らされるアメジストはゆらりと揺れ、ほんの少しの感情の乱れを読み取らせた。

不思議に思い、先程までなかった感触に気づいた私はそっと左腕を掲げる。
そっと月光に照らせば、左手の薬指には紅色のレース糸で編まれた細く繊細な指輪。ロマンティックで少し気弱な彼らしい、柔らかな束縛を表したプレゼントだ。

糸で繋ごうとするのは傀儡師の性なのか。
ふとそんなことを考えながらほんの少しだけ可笑しくなってクスリと笑う。そっとベッド脇に腰掛けたままの彼の方を見ると、彼は竜胆色の瞳を不安げに揺らし、こちらを見つめていた。

こんなもので繋がなくても私は貴方のそばを離れたりしないのに。

切なげな瞳は幼子のように愛を乞うていた。
こちらを見つめる彼を呼ぶようにそっと手招きすると、素直に距離を詰めた彼の首の後ろにそっと腕を回す。

冷えた体に熱を灯すよう、薄い唇にそっと口付ける。切なさから揺れていたアメジストは、気づけば情欲の火を揺らめかせていた。
触れた場所から灯る熱に、妖しいほど美しい月の光に、揺れる竜胆色の瞳に惑わされて二人は熱に酔った。

魔法の糸で時計の針を縛ってしまおう。二人の時間が終わらぬように。

明けない夜もあるのかもしれない。