予想外な部下



11月1日の夜のこと。メキッと後ろの外壁に上司の拳がめり込み、ヒビが入る。私の知っている壁ドンじゃない。

「どうしてそうなった」

バニーガール姿の名前を般若の様な顔で見下ろす降谷。上司の低い声に着けている耳がしゅんっと枝垂れる。

「ふ、降谷さんが言ったんじゃないですか、潜入する時は普段の自分とのギャップが大切っ…」

「その格好はないだろ」

言葉を遮られた。

「ハロウィンだから」

「ハロウィンは昨日までだ」

まぁ、なぜこうなったかというと話を遡ること数時間前。鍵を手に入れるから至急そのスペアキーを作成してほしい、と公安技術開発課に所属している自分に急遽連絡が入った。

目立たないように、と言われても行き先が黒ウサギ亭となるとなかなか難しい。
男性なら兎も角、女性の自分が中に潜入となるとこれしか思いつかなかった。

一分一秒でも早くスペアキーが欲しいなんて言うからわざわざその機材を持ってきたのだ。いらっしゃいませーと笑顔で出迎えた自分に対し彼は笑顔ではあるもののこめかみに青筋を立てていた。体験として急遽ここに入れたことを寧ろ褒めて欲しいぐらいなのに。

「それより鍵を…」

手を差し出せば彼はしぶしぶイチョウ柄の可愛らしい財布から鍵を取り出す。ジャラッとキーホルダーに付いている鍵は三つ。

「この鍵だ」

その内の一つを彼が指さし、名前はさっそくと背中と胸の谷間に忍ばせていたキットを取り出し、型を作成する。

彼が眉を潜めたのがわかった。

気にせずスポイトに入ってる速乾性の凝固液を入れれば、鍵は完成だ。

複雑な表情で自分を見下ろしている上司にウサ耳で突いてやろうかな、なんて思ったり。私だって好きでこんな格好してねーですよ!

「そのスペアキーは私の肌に触れてませんから汚くないですよ?」

「そんなことを思ってるんじゃない」

じゃあなんで機嫌悪いんですか!

「名前さーん!どこー?」

休憩室にいない自分を従業員が探している声が店内からする。

「あっ、はーい!今行きます!」

「待て待て待て」

店の中に入ろうとする自分を降谷が腕を掴んで止める。

「え、なんですか?」

「もう帰れ」

「でも仕事を途中で抜け出したら逆に目立ちますし」

「違う意味で既に目立ってるんだ」

「違う意味ってどんな意味ですか」

ムッとして言い返す名前に降谷は一度口を閉じてしまう。黙っている彼だがその顔はどんどん険しくなっていった。

「これ以上は…セクハラになる」

苦虫を潰したような顔で言い放ったその言葉に名前はガーンッとショックを受ける。

「わ、私の体は、降谷さんにとってセクハラになりますか」

「は?」

「お目汚しをしてしまった、ということですよね?」

途端に恥ずかしくなりサッと両手で胸元を隠す。

「結構…自信、あったんですけど…」

はぁーーー…と降谷の盛大な溜息が名前の頭上に降り掛かる。

「…これも惚れた弱みか」

ぼそっと言った彼の言葉はきちんと聞き取ることが出来なかった。

「え?なんですか?」

「心配なだけだ。君が嫌なセクハラに合わないか。毛利先生みたいなお客さんもいる」

吊り上げていた目尻を下げ、心配そうに名前を見る降谷に自分も冷静になり、悲しげに眉が下がる。

「心配してくださったのに、すみませんでした…」

「わかったならさっさと帰れ」

「せめて指導して下さった先輩に具合が悪くなったと言ってきます。このまま黙って抜け出すのも気が引けるので」

それで君の気が済むのなら、と彼は渋々頷いてくれた。戻った瞬間に事件に巻き込まれ容疑者として帰れなくなってしまったのを降谷さんが再び鬼の形相でこちらを見ることになるとも知らずに。


後に彼とはお付き合いすることになるのだが、君のプロポーションに誰もが釘付けだった、と当時を振り返り腹いせにもう一度バニーガールの格好をさせられる日が来ることを名前はまだ知らない。



おわり
2020.11.01.いいね♡
公安技術開発課とスペアキー作成の部分は私が勝手に作りました(笑)

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