「女というのは本当に面倒だな」
かちゃ、と小さな音をたてて銀食器を扱いながらエルヴィン・スミスは不機嫌そうに肉を切る。ここはシーナのとあるレストラン。少し落とした照明とその雰囲気に合った音楽の中でエルヴィンとナマエは食事を(少なくともナマエは)楽しんでいた。彼の向かいで無愛想にワインを傾けるナマエはエルヴィンとは同期で彼の気心知れた数少ない友人の一人だ。
「また別れたの」
「あの女…私に調査兵団を辞めろと言ってきた。辞めて婿養子になれと」
「…それで?」
「もちろん断った。すると今度は援助を打ち切ると脅してきたんだ」
「それは…困るわね」
「あぁ。だがそもそも大した額を貰っていたわけではないから結構だと言ったよ。また代わりを見つけなければならないが」
「…今度の資金集めパーティー、私も参加しようか?」
「それは駄目だ。もしどこぞの貴族の目にでも留まったらどうする。君を失うわけにはいかない」
「そうよね。こうして愚痴を言う相手が居なくなるものね」
くすくすと笑いながらナマエはまたワインを喉に流し込む。エルヴィンにとってナマエこそ都合の良い女なのかもしれない。だがそれでも良かった。この立ち位置をあえて選んでいるのはいざというときすぐに彼から離れられるようにだ(そしてエルヴィンもナマエから離れられるように)。
「すまないな、毎度付き合わせて。明日は休みだし何か予定があったんじゃないか?」
「あったら来ないわよ。今さら遠慮なんかしないで、気持ち悪い」
「そうか…ありがとう」
「…」
「やはり私にはナマエが必要だ」
そう言ってエルヴィンは視線を落とす。ナマエは黙ってその様子を見ていたが、やがて彼と同じように視線を落とし微かに口元を持ち上げた。ナマエはこの関係を崩すつもりはない。今の自分は、恋人なんかよりよっぽど近い位置に居るのだから。