ナマエは事務的作業が苦手である。さっさと終わらせてしまえるリヴァイやきちんと段取りをして計画的に進めていけるミケとは違い、ナマエは取り掛かるのは早くても完成までの時間が極端に長いのだ(要領が悪いとも言う)。エルヴィンなど日に自分の倍以上もの書類を片付けているというのだから彼は本当に人間なのかと疑いたくなってくる。ちなみにハンジは論外だ。
「ナマエ、大丈夫か」
「ミケ…」
「あまり根詰めるのも良くないぞ」
自分の仕事に一段落つくとミケはいつもナマエの執務室に足を運んでいた。今や彼の段取りの中にはナマエの所に来るところまで含まれている。そして書類に埋もれるようにしてデスクに向かう彼女に救いの手を差し伸べるのだ。ミケの柔らかな雰囲気に触れるだけで心が軽くなるような気がするが、それはナマエがミケに淡い恋心を抱いているからなのだろうと思う。温かな紅茶を手に少し休憩したらどうだ、と部屋に入ってきた彼を見てナマエの胸がきゅんと跳ねた。
「ありがとう…もうちょっとでこれ終わるから、そしたら飲むね」
「あぁ。ではそれまでこっちの書類を整理しておこう」
「いつもありがとう…すごく助かる」
部屋の隅にはデスクに乗りきらなかった書類の束が乱雑に積み重なっている。ミケはそれを日付順に並べばらばらな角を揃えると交互にまた積み重ねていく。その手際のよさに思わず見とれていると手が止まってるぞ、と指摘され慌ててペンを落とすところだった。表情を引き締め書類に向き直るナマエにミケはふと笑みをこぼす。
「やっと1枚終わった…」
「こっちも終わった。冷めないうちに紅茶を飲むか」
「うん!」
立ち上がり体を伸ばすとばきばきと骨が延びる音がした。ソファに座り直すとタイミングよくカップに注がれた紅茶が差し出される。程よい温度のそれは猫舌のナマエにはありがたかった。半分ほど一気に流し込むとふうっとつい溜め息がでる。
「美味しい…落ち着く…」
「真面目なのは良いことだが、あまり気負うのも良くない。特にお前は追い詰められると身動きとれないタイプだろう」
「うん…自覚はしてる」
「たまには息抜きも大事だ」
「息抜きかぁ…私って本当に不器用って言うか、息抜きに何かしようとすると今度はそっちに集中しちゃうんだよね」
「いい意味で真っ直ぐだからな。そういうところが俺は好きだが」
「えっ」
「ん?」
「あ、ううん。何でもない…」
ふい、と顔をそらして紅茶を啜る。好きとは人としてとか友人としてのそれだろうか。ちらりと視線だけミケに向けると彼は変わらぬ様子でカップに口をつける。
「(深い意味はない、か…)」
「…何をむくれてる」
「別に…」
「まったく…こういうところは変にひねくれてるな」
「…どういう意味?」
「言葉の通りに受け取れば良いだろう。好きだと言ったら、そういうことだ」
「え、…わ、分かりづらいよ」
「…なら、これでわかるだろう」
そう言ってミケがしてくれたキスはとても優しかった。