ナマエは自分がこれからどうすべきかを考えあぐねていた。持っていたトレイを静かにローテーブルに置いて再びソファーに目を向ける。ことの始まりはつい30分ほど前だ。エルヴィンから書類を溜め込んだハンジの尻をたたいてくるようにと(実際は違う言い方であったが似たような意味のことを)言われ少しばかり団長室から出ていた。ハンジに圧力をかけ帰りに食堂に寄るとお茶の用意をして今しがた戻ったところなのだが、いざ団長室へと入ってみればエルヴィンはソファーですやすやと眠っている。
「……エルヴィン団長」
ためしに小さく呼び掛けてみたが反応はない。とりあえず腹の辺りにブランケットをかけ眠っているエルヴィンの顔をしげしげと見つめた。ナマエが団長補佐として就任してから暫く経つが、エルヴィンがこのように無防備に眠っているところなど見たことがない。前に一度睡眠はとっているのかと本人に尋ねたことがあるが上手い具合にはぐらかされて結局どうなのかわからずじまいだった。
「(団長も寝るんだ……まぁ、当たり前か)」
いつしかナマエは、エルヴィンは人間ではないのだと思うようにしていた。人類の勝利のために人間性どころか人間であることを捨てたのだと。いつだったかハンジに話したら大爆笑されたのがちらりと脳裏に思い浮かぶ。ふるりと頭を振ってそれを消し去ると再びエルヴィンに目を向けた。依然穏やかな寝息をたてるエルヴィンの顔は目を閉じているだけだというのにいつもより随分と幼く見える。ナマエはソファーの前に膝をつくとエルヴィンの顔に自分のそれをぐっと寄せた。
「(何か…可愛い、かも)」
これほど近いところでエルヴィンの顔を見るのは初めてだった。ナマエはちらりとエルヴィンの唇に視線やるとそっと重ねるように口付ける。一瞬間を置いてはっと我に返るとナマエは慌てて体を起こし立ち上がった。
「(あれ、今……、)」
かっと顔が熱くなるのを感じながらナマエはよろよろと後退るとローテーブルに足を引っ掻け尻餅をついた。上にのせたティーポットががちゃりと音をたてて、エルヴィンの瞼がゆっくり持ち上がる。
「ん、……ナマエ…何をしてるんだ、そんなところで」
「な、…何でもありません、ごめんなさい」
「は…?」
きょとんとしているエルヴィンに会わせる顔がないとナマエはふいに顔をそらす。エルヴィンはそのようすを見て小さく吹き出すとソファーから立ち上がりナマエに手を差し出した。その手を握り立ち上がるとナマエはそのまま引き寄せられエルヴィンの胸に飛び込む。背中に回った腕の意味をナマエが理解するまで、あともう少し。
わるものたちのひみつ
(本当は起きていたと言ったら、怒るだろうか)
相互してくれたユウさまに勝手に捧げます。
ユウさまありがとう!大好きです!