「彼氏?」
「えぇ…仮ですけどね」
ベッドの縁に腰掛けながら素肌の上にシャツを羽織る。後ろで片肘をつきながら横になるエルヴィンはナマエの背中を見つめながら若干馬鹿にした風に息を吐き出した。
「仮とは…?」
「ずっと好きだったと告白されてはじめは断ったんですが、お試しでいいから付き合ってくれないかと言われたんです。自分のことを知ってほしいと。確かに顔も名前も知らない方でしたけど、」
「それで了承したのか」
「…まぁ、そういうのも悪くないかなと思ったので」
「そうか…じゃあこうして会うのももう終わりだな」
エルヴィンとナマエは恋人でなく、お互いの都合のいいときに体を重ねるだけの所謂セックスフレンドだった。きっかけが何だったかは思い出せない。だが随分長い間この関係は続いている。
「終わり、ですか…」
「そうだ。君がその彼と付き合うなら、俺との関係は解消すべきだろう?」
「…そうですね」
ナマエはシャツのボタンに手をかけながらぼんやりと床を見る。言われてみればその通りだ。しかしナマエはエルヴィンとの関係が終わるとは考えていなかった。否、考えるまでもなく変わらずずっとあるものだと思っていたのかもしれない。それがこうもあっけなく終わるものかと落胆に似た感情が押し寄せる。いつの間にかボタンを留める手は止まっていた。
ぼうっとしていると突然腕を引かれてその勢いのままベッドに背をつく。すぐ目の前にはエルヴィンが覆い被さり口元をつり上げた。
「最後にもう一度しようか」
「……」
「どうした?」
「…いえ、何でも…」
エルヴィンは口元を緩めナマエの首もとに唇を寄せた。ナマエはちくりと感じる痛みに眉を寄せながらそっとエルヴィンの髪の毛に触れる。ふわ、と嗅ぎ慣れたエルヴィンの香りがした。するとどうしてか胸が締め付けられたように苦しくなり、思わずエルヴィンの肩を押す。
「、待って…」
「ん?」
「私、やっぱり嫌です」
「……」
「最後なんて、嫌…です」
エルヴィンは幾らか目を見開いたあときゅ、と目尻を細めナマエの頬を愛しそうに撫でた。その手にすり寄るようにして目を閉じるナマエに思わず苦笑する。
「ナマエ…選ぶんだ」
「え…?」
「俺か、その男か……それとも両方とるか?」
「いえ、私…団長がいいです。団長だけ…居てくれればそれで」
「…やれやれ、ようやく追い付いてくれたか」
「え?追い付く、って…」
「俺は随分前から君だけを見ていたよ。待ってるつもりだったがあまりに焦れったくてね」
「え、…じゃあ、あの告白って…」
「勿論仕込みだ」
「……」
ふっとからだの力が抜けていく気がした。そして同時に酷く恥ずかしくなった。エルヴィンの気持ちにも、自分のそれにすらも気づけなかった鈍感さに、我ながら呆れ返る。思わず顔を手で覆うと怒っているかと聞かれて首を振った。大好きです。指の間から目を覗かせながらそう言うとエルヴィンは満足そうに微笑んでナマエの手首を掴む。奥にある真っ赤な顔をその目に写すと何故だか心が満たされていった。