「私に触ってくれないか」
「……は?」
書類を分類している手を止めて思わず顔を上げる。デスクに向かっているエルヴィンは口元で手を組み至極真面目な顔でナマエを見据えていた。
「団長…あの、今…」
「聞こえなかったかい?私に触ってくれと言ったんだ」
「………」
団長はきっと疲れてしまったのだ。今は壁外調査を控えている忙しい時期だ。ナマエも団長補佐として早朝から夜遅くまで兵団の内外を駆け回ることも少なくない。今日も例に漏れずお互いに朝食をとったあとは黙々と仕事をこなしていた。おかしなことを言いたくなる気持ちも、わからないでもない。
「…休憩しましょう」
「……」
「そう言えば朝から働きづめですものね。コーヒーでも淹れてきます」
「…後でもらうよ。ナマエ、こちらへ」
「………い、嫌です」
「どうして?」
「……、」
「ナマエ…私があまり気の長い方ではないのは知っているね?……来なさい」
「……っ!」
地の底を這うような声に思わず肩が揺れる。喉が貼り付くような感覚を覚えて慌てて唾を飲み込んだ。ゆっくりエルヴィンに近づき、デスクの裏へ回る。エルヴィンはきぃ、と椅子を回してナマエの方へ向くと彼女の両手をとった。
「さぁ、触ってくれ」
「……どこを、」
「どこでも。好きなところを」
エルヴィンの体で好きなところ。そう言われても、ナマエにはわからない。あぁでも、この透き通るような青い目は好きだ。しかし目に指を突っ込むわけにもいかず、仕方なく涙堂を撫でるように横に指を滑らせた。何故か息が少し苦しい。
「ナマエ」
「…はい」
「私も触れたいんだが…良いかな」
「…はい」
ぼうっとした気持ちのまま返事をすると腰を引き寄せられてエルヴィンの膝に乗せられる。はっと気づくとエルヴィンの顔が間近に迫っていた。
「だっ、団長…!」
「ん?」
「ちか、い…です…!」
「触れても良いと、そう言ったのは君だ」
そうだけど、そうじゃない。慌てて抗議しようと開いた口は、エルヴィンのそれでそっと塞がれた。
ひたすらエルヴィンに触りたい。