10月に入ると団長宛の手紙のなかに彼の誕生日を祝う内容のそれが増えてくる。もともと貴族のご令嬢方から人気があり何もなくとも時折手紙が届くのだが、わざわざ送りつける理由を考えなくても良いのだから皆ここぞとばかりにこの機会を狙って寄越すのだ。それらの手紙や書類を種類別に分け、それをまた優先順に並べていくのがナマエの仕事でもあった。届くものは何もラブレターばかりではなく、もちろんお偉方からの指令書だってある。全てが一緒くたに届くものだから分類するのが大変で、毎年この時期は頭を抱えたくなるのだ。
「団長…こちらの書類からお目通しをお願いします」
「あぁ、わかった」
「私的なお手紙はまとめておいておきますね」
「捨ててしまっても構わないよ。どうせ返事など書かないからね」
「そうはいきません。これは団長に届いた物です。捨てるにしてもそれはどうぞご自分でなさってください」
どさ、と色とりどりの封筒が入った箱を執務机にのせる。まいったな、と笑ったエルヴィンを一瞥してナマエは静かに息を吐き出した。お茶を淹れてきます。そう言いながらエルヴィンに背を向けようとすると腕を掴まれ動きを止める。
「君からはないのか?」
「…は?」
「おめでとうの一言ぐらい期待していたんだが」
エルヴィンは手紙をひとつつまみ上げて顔の前でひらりと揺らした。わずかに口角を持ち上げ試すような眼差しで見つめられる。エルヴィンに握られている手首が熱い。
「…誕生日は、まだ先ですよね」
「あぁ」
「じゃあ当日になったら言います」
「では日付が変わるその瞬間に、君は私と一緒に居るということだな?」
「は?…あ、いえ…そういう意味では…」
「誕生日が楽しみになってきたよ。さて、そろそろ仕事に取りかかるか」
「あ、あの…団長…」
「ん?あぁ、お茶を淹れるんだったね。美味いのを頼むよ」
「は、はい…」
エルヴィンは早速ペンを取り書類に目を通しながら必要な場所にサインしていく。ナマエはそれ以上声をかけることができず、仕事の邪魔になっても仕様がないので言われた通りお茶を淹れることにした。さっきのはきっとエルヴィンの冗談だ。そう、自分に言い聞かせて。