昼食をとり終えてふらふらと歩いていると丁度良い木陰を見つけてミケはごろりとそこに横になった。さわさわと風に揺れる新緑の間から太陽の光がきらきらと輝いて、若草の匂いが鼻をくすぐると心地よい眠気が襲ってくる。ミケはそれに抗おうとはせずだんだんと重くなっていく瞼をゆっくりと閉じた。

どれくらい時間が経っただろう。ミケは目を閉じたまますん、と鼻をひくつかせると緑の匂いに混じってほんの少し甘い花のような、蜜のような匂いがした。この辺に花など咲いていただろうか。すっと目を開けると目の前にはどこから入り込んだのか何ともふてぶてしい顔をした猫がミケの顔を覗き込んでいた。


「…」


無言のまま見つめ合うこと数秒。猫は人に慣れているのかミケが撫でても逃げ出すようなことはせずじっとその場に座っていた。


「おーい、どこ行っちゃったのー?」


少しして聞こえてきた声には聞き覚えがあった。ミケはのそりと体を起こすと猫を抱きかかえて声のする方へ歩き出す。声の主はやはりナマエであった。ナマエは新兵の頃からミケが良く面倒を見ていた兵士で、その実力はミケやリヴァイなどよりは劣るものの並みの分隊長とさして変わらない。ふわりと揺れる長い髪の毛にはどこで付けてきたのか葉っぱが引っかかっていて、ミケは思わず口元を緩めた。


「お前の猫か」

「え?あ、ミケ分た「にゃあ」……!」

「…?」

「う、あ…の、ミケ「にゃあ」…」

「………名前、ミケなのか?」

「ちがっ「にゃあ」………すみません、」


ナマエは顔を真っ赤に染めて眉を下げるとそれを隠すように俯いた。ミケは猫を地面に降ろすとしゅんと頭を下げているナマエの目の前まで行きその顔を覗き込む。


「ナマエがつけたのか?」

「あ、あの…すみません、勝手に…」

「理由があるんだろう?」

「…わた、わたし、が…」

「ん?」

「その、分隊長の名前を、呼ぶ練習を…っ」


湯気が出そうなほど真っ赤な顔で、終いには涙まで浮かべてナマエはもう一度小さく謝った。ミケがナマエの頭に手を乗せると引っかかっていた葉がはらりと落ちる。怒ってなどいない。そう静かに伝えると大きな瞳からついに涙が一筋こぼれた。


「それで?練習の成果はどうなんだ」

「あっ…えっと、」

「猫が自分のものだと思うくらいには、呼んだんだろう?」


熟れたリンゴのような赤い顔をそっと両手で包み込むとこぼれた涙を指で拭う。少しの間を開けて耳に届いた自分の名前が、何だか特別なもののように思えた瞬間だった。