すん、と鼻をひくつかせるとミケはナマエに向かって手を伸ばす。執務室に入った途端の行動にナマエは目を丸くするが次の瞬間にはふにゃりとその顔が緩んでポケットから小さな箱を取り出した。


「ミケはにおいでわかっちゃうから、サプライズとか出来ないね」

「…すまない」

「いいのよ。そういうところも好きだから」


はい、と綺麗にラッピングされた箱を伸ばされた手へと渡す。
今日は俗に言うバレンタインだ。恋人であるミケのためにチョコレートを買いに走ったのが一昨日のこと。甘いものを好まない彼が唯一食べられるそのチョコレートは中にウイスキーが入っていて酒瓶の形に固められた大人向けのものだ。くれるのならばこれがいい。恋人になって初めてのバレンタインの前に言ったその一言で、ミケへのチョコレートは毎年これと決まっていた。


「ん、もう一つあるのか」

「え?あぁ、うん。これはエルヴィン団長に」

「…」

「言っておくけどこれは私からじゃないから。同室の子から頼まれちゃったの。ほら、ミケと付き合いだしてから私もそれなりに団長と話すようになったじゃない?」

「…そうか」

「なぁに、妬いてるの?私はミケだけだってば」

「あぁ」


女性の中では身長が高めのナマエでもミケに比べれば大分小さく見える。ミケはすっぽりとその細い体を抱きしめるとナマエの手に握られていたチョコをするりと取って己のデスクに置いた。


「これは俺から渡しておく」

「え…」

「頼まれたものでも、お前の手からほかの男にチョコが渡るのは許せない」

「あぁ、そう…ちゃんと渡してくれるならそれで構わない、けど…」

「何だ」

「ミケがこんなに妬いてくれるの珍しいなぁと思って」

「…嫌か」

「まさか。嬉しいよ」


ぎゅう、と抱きつくとミケの体から安心したように力が抜ける。丸まった大きな背中を子供をあやすようにぽんぽんと撫でれば子供扱いするなとばかりに首筋に吸い付かれた。甘い痛みに酔いしれながらナマエはミケの背中に回していた腕を緩めキスをせがむ。


「…執務中、だ」

「良いじゃん今日くらい。ていうかそんなこと言えるの?」

「…」


ナマエは腹に当たる少し固くなりかけたそれを服の上からそろりと撫でる。ミケは体を離し早足でドアに向かうと鍵を閉めまた戻ってきた。ナマエを横抱きにすると備え付けのソファに押し倒しぎらつくその目を隠そうともせず性急に口付けるのだった。



Happy Valentine