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日の出前の薄暗い道をナマエは重い足取りで歩いていた。ふあ、とあくびをひとつこぼすと見えてきた目的地に視線を向ける。目の前で足を止めると立派な門を仰ぎ見た。調査兵団本部。その文字をちらりと見て視線を戻すと門番に通行証を見せ母に教わった通りの道を歩いていく。ナマエの母はここ調査兵団で働いていた。調査兵としてでは無く彼らに食事を作る、言わば食堂のおばちゃんとしてだ。その母は実家の母、つまりナマエの祖母の体調不良を理由に年の離れた弟を連れて実家に帰っている。母の居ない間、彼女の代打としてナマエはここにやってきたのだ。
調理場の扉を開けてとりあえず灯りをつける。ぼうっと鈍く光るランプを頼りにナマエは仕事にとりかかった。やるべき仕事は大きく分けて二つだ。一つは大鍋二つ分のスープを作る。もう一つは前日のうちに仕込んであるパンの生地を成形して焼く。作業自体は単純だが何せ量が多い。ひとりでこなすには大変だが、引き受けたからにはやるしかない。ナマエは包丁を握りしめた。