エルヴィン・スミスと彼は名乗った。そして調査兵団というところの団長なのだとも言った。少なくとも名前はそんな団体の名前は聞いたことがないし、そもそもなにを調査するのかわからない。普通なら〇〇調査隊とかじゃないのか、と違うところで頭を悩ませているとエルヴィンがおもむろにソファから立ち上がる。


「ここは君の部屋なのか」

「そうです。スミスさんはどうやってこの部屋に来たか覚えていますか」

「…わからない。団長室で仮眠をとっていて、気が付いたらここに居た」

「(夢遊病、とか…?)」


どうやってこの部屋に入ったかはこの際置いておいて、エルヴィンが居たという団長室まで送り届ければこの件は解決するのではないだろうか。もし夢遊病なのだとしてもそう遠いところから来たとは思えない。不法侵入については自分が目をつぶれば済むのならばそれで良い。名前はよし、と立ち上がる。


「もしよければその、団長室?までお送りしますけど」

「…いや、自分で戻れるはずだ。これ以上君に迷惑はかけられない」

「そうですか?…あ、私名前です。呼び捨てで呼んでください」

「わかった。名前、後日改めてお詫びに伺わせてもらうよ」

「いえ、お気になさらず。…じゃあ、気をつけて」


玄関の扉を閉めるとどっと肩から力が抜ける。何だったんだあの人。男前だがよくわからない人だった。名前からして外国人のようだし何かの宗教の信者だろうか。


「……やめよ」


考えてもわかるわけ無い。ふるりと頭を振ってリビングに戻ると残された靴の跡を見てまた肩を落とした。綺麗に掃除した後ようやく着替えて夕飯の弁当を温める。ちん、と温め終了の合図と共にドンドンとドアを叩く音が聞こえ嫌な予感を胸に玄関へと急ぐ。


「はい…」

「名前…ここは何処なんだ」

「え?何処って…」

「壁は…、巨人はどうなった?」

「は、巨人…?」


やっぱりやばい人だった。咄嗟にドアを閉めたくなったが何とか踏みとどまり近所迷惑になるのでもう一度エルヴィンを中へ入れた。


「とりあえず、どうぞ…あ、靴は脱いでくださいね」

「あぁ、すまない…邪魔をするよ」


エルヴィンをソファに促しとりあえず来客用のちょっと高い紅茶を出す。


「それで、何でしたっけ…」

「……名前は巨人を知っているか?」

「まぁ、物語りなんかではよく出てきますよね。ジャックと豆の木とか」

「…では壁のことは、」

「壁ってこの壁ですか?」


こんこん、と部屋の壁を叩くとエルヴィンはいや、と首を振って俯き顎に手を当てて考えるような素振りをした。そして暫くして顔をあげると真剣な顔で見つめてくるものだから名前も思わず姿勢を正しこくりと唾を飲み込む。


「名前…どうやら私は違う世界から来たらしい」

「………ん?」

「私の居た世界では人間を食う巨人がいて、人類は壁の中でしか暮らすことができない」

「は…?」

「私は調査兵団の団長だと言っただろう?巨人の彷徨く壁外を調査するのが私の仕事だ」

「ちょ、ちょっと…待って下さい。突然そんなこと言われても…」

「あぁ…そうだろうな。私も信じられない」


エルヴィンが嘘をいっているようには思えない。だからと言ってはいそうですかと簡単に信じられるような話でもない。本当に彼が違う世界から来たとして、一体自分に何をしろと言うのだ。名前はからりと乾く喉を潤そうと自分用に淹れた紅茶を一口飲んだ。


「…突然押し掛けてすまなかった」

「いえ、それは…大丈夫です」

「ありがとう。…私はそろそろ行くよ」

「行くって…、何処へですか?」

「わからないが…来れたんだからきっと帰れるだろう。何か手がかりになることを探すよ」

「……」


エルヴィンは立ち上がると玄関へと向かう。ぱたん、と扉が閉まるのを名前はただ背中で聞いていた。