時計の音が嫌に耳につく。エルヴィンが出ていってもう二時間が過ぎた。あれから彼は戻ってることもなく、きっとどこかで手がかりとやらを探しているのだろう。自分には関係ない。そう言い聞かせてテレビに視線を向けるが内容はちっとも入ってこなかった。
気分を変えようと風呂にはいっても思い浮かぶのはエルヴィンがどうしているかだ。今夜はどこで眠るのか、食事は?風呂は?考えないようにしている時点で既にエルヴィンの事を考えているのに気付いて、名前は思わず自嘲気味に笑う。風呂から上がると湯冷めしないよう服を着込んで、たしかシャツ一枚で外へ出たエルヴィンの分の上着も持って部屋を出た。


「……どこ行ったんだろう」


外に出ると先程の雨と雷が嘘のように星空が広がっていた。マンションから出たもののエルヴィンが何処へ行ったのか検討もつかない。しかし彼とて夜に、しかも土地勘のないところで闇雲に動き回ることはしないだろう。名前はとりあえず一番近くの公園へ行くがそこには誰もおらず、コンビニ等の明かりがついているところや交番でも尋ねてみたがエルヴィンを見た人はいなかった。


「もしかして…無事に帰れた、とか?」


だとしたら良いのだけど。意気込んで外へ出たものの空回りに終わって何だか力が抜ける。マンションの近辺はあらかた探し終えて、それでも見つからないのだからきっと帰れたのだろう。そう思うことにして名前はついでに立ち寄ったコンビニで会社帰りに買い忘れた酒とつまみを買うと来た道をとぼとぼと歩いていく。


「…あ」


マンションが見えてくるとその前にぽつんと佇んでいる一人の男がいた。言わずもがな、エルヴィンである。彼は名前に気が付くと駆け寄ってきて、何となくばつの悪そうな顔をする。


「すまない…結局戻ってきてしまった」

「……帰れたのかと、思ってました。この辺探したけど見つからなかったから…」

「…探してくれていたのか」

「いや、だって……気になるじゃないですか」


恥ずかしそうにうつむきながら視線だけでエルヴィンを見ると彼は水色の目を細めて嬉しそうに笑っていた。名前は言葉が見つからず、手に持っていた袋を顔の高さまで上げると飲みます?と問う。


「ありがとう。君は優しいな」

「……そんなこと、ないですよ」


エルヴィンを追いかけて探したのも、彼のためと言うよりは自分が罪悪感みたいなものに耐えきれなかったからだ。あのまま放っておいて彼が飢え死にでもしてしまったら彼を知っている自分が、そうさせた責任を感じてしまうから。それが嫌だっただけなのだ。
不思議そうな顔をするエルヴィンに考えている事を悟られまいと誤魔化すように持ってきた上着を差し出した。彼はそれを受け取って羽織ると腕はなんとか通ったようだが前のジッパーが閉まらない。大きめのサイズだが女用のそれは体の大きなエルヴィンには少し小さいようだったがそれでもないよりはましだろう。


「行きましょうか」

「あぁ…荷物を持とう」

「あ…どうも」


袋を受けとるとエルヴィンは空いた名前の手を引いて歩きだす。あまりの自然な動作にそのまま流され手を握り返してしまったがこれではまるで恋人同士だ。しかし今更離すのは何となく気が引けて結局名前は自分の部屋につくまでその手を離さなかった。