とぷとぷとグラスにワインを注ぎエルヴィンに差し出す。彼の世界ではワインは貴重品らしく始めは遠慮していたがいざ一口飲むと気に入ったようで頬に赤みが差すくらいには口にした。これはコンビニでも売ってる安物だが、今度ちょっと高いやつも飲ませてあげようと名前は心の中で一人考える。

あのあと部屋に戻ったエルヴィンに風呂に入ってもらい時間もけっこう遅くなっていたのもあって軽い夕食(おにぎりを握ったくらいだけど)を用意し食べてもらった。そのあとは晩酌がてら先程買ってきた酒とつまみを広げてお互いの事をぽつりぽつりと話していく。それでわかったのは、やはりエルヴィンは違う世界から来たのだろうということだ。かいつまんで話してくれた彼の世界は名前にとっては想像も出来ないほど辛く残酷だ。しかしその中で希望を捨てずに生きる人々は、もちろんエルヴィンも含めてとても美しいと思った。普通に生まれ今まで大した苦労もせずにのうのうと生きてきた自分が恥ずかしくなるくらいだ。


「…心配ですか?」


ふと、視線をおとしたエルヴィンの表情がどこか寂しげでつい聞いてしまった。心配に決まってる。巨人とやらもそうだが組織のトップが何の前触れもなく突然姿を消せば当然騒ぎになる。友人、恋人や家族も心配しているだろう。


「…ごめんなさい」

「いや…兵団のことはあまり心配していないよ。かといってずっとこのままだと困るのは事実だが…優秀な部下達が居るからね。何日かは平気だろう」

「信頼してるんですね」

「そうだな…共に命を懸けて戦っている仲間だ。信頼はしている」

「そうですか…」


羨ましい、と名前は思った。彼女にも友人と呼べる者はいるが彼らのようにお互い信頼関係はそれほどない、薄っぺらな関係だ。


「あとは不測の事態が起きなければ良いが…」

「……ふふ」

「……どうした?」

「いえ、だって……今のこの状況の方がスミスさんにとって不測の事態なのに、って思ってしまって」

「確かに…そうだな」


真面目くさった顔で今気づいた、みたいな顔をするものだから名前はもう我慢できず腹を抱えて笑いだした。つられるように口元を緩めるエルヴィンに変な人だと言えば調査兵団は変人の集まりなのだと言う。成る程、と妙に納得してしまった名前は目尻に浮かんだ涙を拭うと息を整えグラスに残ったワインを飲み干した。


「スミスさん、提案なんですけど…もとの世界に戻れるまでここに住みません?」

「……私はありがたいが、」

「じゃあ決定ですね。大丈夫です、人ひとり養うくらいの貯えはありますから。それに、この部屋に来たんだからきっと帰れるとしたらこの部屋からですよ」

「いいのか…本当に」

「もちろんです。ちょっと狭いですけど…よろしくお願いしますね、スミスさん」

「エルヴィンでいい…こちらこそ、よろしく頼む」


差し出された手をぎゅっと握る。自己満足になるかもしれないが、名前はエルヴィンの為に何かしてあげたいと思った。もとの世界に帰してあげることは出来ないかもしれないが、それまでの衣食住を提供することなら出来る。そしてそれはきっとそんなに長い期間にはならないだろうと何となくわかる。


「じゃあそろそろ寝ましょうか。私、明日も仕事なので日中は居ないんですけど…大丈夫ですか?明後日なら、休みなんですが」

「適当に時間を潰しているよ。大丈夫だ」

「日用品は明日の帰りに買ってきますから。すみません、そんな服しかなくて」

「いや…なかなか着やすくて快適だよ」


風呂上がりのエルヴィンには大きめのTシャツとスエットのズボンをはいてもらったが、正直凄い違和感だ。似合っていると言えばその通りなのだが、とりあえずきちんとしたパジャマを買おうと名前は心に決めた。