「好きです、エルヴィン団長」
兵団のトップの名前が耳に入りナマエは思わず飛び起きる。辺りを見回すがそこは昼寝をする前と変わらず資料の山で、変わっていることと言えば資料室全体が夕焼け色に染まっていることだけだ。
はしごを登り中二階のようになっているところで寝ていたナマエはそろりと声のする方を見た。そこにはやはりエルヴィンと、もう一人先ほどの声の主である女性兵士が居て向かい合って何か話しているようだった。
「ナマエ、そこに居るんだろう」
二人が出ていくまで待っていようと体を引っ込めたところで突然自分の名前が呼ばれ振り返る。エルヴィンは真っ直ぐナマエを見上げこちらに降りてきなさい、と静かに言った。一方女性兵士の方は戸惑いを隠せない表情で恥ずかしげに顔を赤くし俯いている。ナマエはとりあえず下に降りるとエルヴィンに手招きされ近くに寄った。すると突然肩を抱かれてエルヴィンに寄りかかる。
「すまない、私はナマエと付き合っていてね。君の気持ちには応えられない」
にこやかにそう言ったエルヴィンを見上げるとこちらを見ることもなく肩を抱く手に力を込めた。
「信じられません…そんな、偶然こんなところに居るなんて…」
「ならば証拠を見せようか」
エルヴィンはナマエの体を抱き寄せると口付けた。抵抗もせずされるがままになっていたナマエを見て彼女はじわりと涙をにじませ資料室を出ていった。ばたんと音を立てて扉がしまるとようやく唇が離される。
「……何するんですか」
「彼女があまりにしつこいものだからつい、ね」
つい、でキスをされても困る。だいたい付き合っているというのも真っ赤な嘘だ。エルヴィンはこのルックスであるから常日頃からこの手の苦労は絶えないのだろう。それはナマエにも容易に想像がつく。しかしそれとこれとは話が別だ。エルヴィンがどれだけモテようがナマエには関係ない話だし、興味もない。キスのことはしてしまったのだから今さら言っても仕様がないが、全く悪びれもせず微笑んでいるエルヴィンに少しだけ腹が立った。ナマエは肩に置かれたままのエルヴィンの手を払い落とすと一応敬礼をして資料室を出る。
「…唇は意外に柔らかかったな」
廊下を歩きながらぽつりと落とされたナマエの言葉は誰の耳にも届くことなく消えていった。