手元の書類を見て溜め息をつく。相変わらずナマエの上司は要らぬ気をきかせて彼女をエルヴィンの元へ行かせようとする。ナマエはナマエでもう恋人ではないと言い出せず、どちらにしろ上司の命令なのだから聞かねばならないのだと自分に言い聞かせ重い足取りのまま団長室へと向かった。


「………」


団長室の前で立ち止まる。ノックをしようと手をあげるがなかなかドアを叩くことができないでいた。


「おい、そこで何してる」

「…リヴァイ兵長」

「入るんならさっさと入れ。邪魔だ」

「じゃあお先にどうぞ…私はまた後にしますので」

「…その書類はエルヴィンに渡すんじゃないのか」

「そう…ですけど」

「なら早く入りやがれ」

「ですから私は後で良いので…」


がちゃ、と目の前の扉が開く。リヴァイとともにその方へ視線を向けると中からエルヴィンの補佐官が顔を出した。


「お二人とも、中へどうぞ?」


くすくすと笑いながらドアを開けナマエとリヴァイが中に入れるようにその身を引いた。どうやらドアの前で騒いでいたためにその声が中に丸聞こえだったようだ。リヴァイは不機嫌そうに舌を打って中に入る。続いてナマエも中に入ると背中で補佐官がドアを閉める音を聞いた。


「仲良く二人で書類を持ってきたのか」

「仲良くねぇよ。たまたまそこで会っただけだ」


リヴァイはばし、と叩きつけるように書類をエルヴィンのデスクに置いた。


「ナマエ、君の書類もこちらへ」

「…はい」


エルヴィンに促されてデスクに近づくとそこに静かに書類を置いた。ありがとう。そう何時もと同じように答えるエルヴィンに何となく胸が切なくなる。


「では、私はこれで失礼します」

「待ちなさい。少し話がある」

「まだ…仕事があるので、」


ちら、と視線をやった先ではエルヴィンの補佐官が書類を閉じたバインダーを棚に収めていた。エルヴィンはそれに気付いていて尚、ナマエが部屋を出ることを許しはしない。


「こいつには俺の先約がある。エルヴィン、お前の用は後にしろ」

「…そうなのか、ナマエ」

「あ、…」

「さっさとしろ、グズが。行くぞ」

「、……失礼します」


リヴァイに手を引かれてナマエは半ば引きずられる様に団長室を出た。エルヴィンは困ったように眉を下げ溜め息をつく。それを見た補佐官は持っていたファイルを全てしまうといそいそとエルヴィンに近づいた。


「彼女さん、連れていかれちゃいましたね」

「…そうだな」

「こう言っては何ですけど…あの子、エルヴィン団長とは釣り合わないと思うんです」

「……」

「私、エルヴィン団長が好きです…団長も分かってくださっているでしょう?」


すす、とエルヴィンの肩に触れ妖艶な手つきでそこを撫でると後ろから耳元に口を寄せ、囁くように話す。それを避けるようにエルヴィンは立ち上がるとくるりと女の方を向いた。


「確かに君の気持ちには気づいていたよ。その上で補佐官につけたことも事実だ」

「じゃあ、」

「誰でもよかったんだ。私に好意を寄せている者なら…誰でも」

「そんな…っ」

「君の気持ちを利用したことは謝るよ。少し彼女の気を引きたかっただけなんだが…今回のことは想定外だったな」


エルヴィンは自嘲気味に笑うと入口まで歩きドアを開ける。そして笑みを絶やさぬまま補佐官に部屋を出るように促した。


「明日からはもう来なくて結構だ。短い間だがご苦労だった」


補佐官は顔を真っ赤に染めてエルヴィンを睨むと団長室を走って出ていった。それを見送るとエルヴィンもさて、と部屋を出てナマエとリヴァイの後を追った。