二つの足音が廊下に響く。団長室からリヴァイに手を引かれたままのナマエは早足の彼に着いていくので必死だった。


「あの、リヴァイ兵長」

「何だ」

「もう大丈夫です…ありがとうございます」


ピタリと立ち止まったリヴァイにぶつかるようにして止まると鋭い目つきで睨みながら振り返る。すみません、と謝るとリヴァイは舌打ちをひとつして視線を下げた。


「…恋人ごっこはもうやめたのか」

「………わかりません」

「あ?」

「私が…自分の気持ちに気付いてしまったので、もう恋人のふりはできませんと団長にはお伝えしたのですが」

「あいつが了承しねぇのか」

「…答えを聞く前に、逃げてしまいました」

「はっ…本当にグズだな」


返す言葉もなく俯いているとリヴァイはナマエの額を小突き視線を上げさせる。


「エルヴィンはお前に好きになるなと言ったのか」

「いえ…でも恋人役は自分に無関心な方が良いと」

「チッ…めんどくせぇ。要はエルヴィンがお前のことを好きなら良いんだろうが」

「え、…?」


リヴァイはちらりとナマエの後ろに視線を向け、つられるように後ろを振り返ろうとしたナマエの顔を無理矢理自分の方へ向かせると何を思ったか突然口付けた。いや、正確にはふりをした。リヴァイとナマエの間には彼の手が入り込み唇同士が触れるのを阻んでいる。状況を飲み込めずにいると突然後ろから体を引かれ倒れそうになるのを誰かに抱きとめられる。顔をあげればそこにはエルヴィンがいて、視線をリヴァイに向けたままナマエの体を自分に引き寄せた。


「お前らしくないな、リヴァイ」

「今のがか?別に俺がそいつに何をしようが関係ねぇだろ?…そいつはまだ誰のものでもないはずだからな」

「………」

「…おいナマエ、これくらいしねぇとこいつの本音は聞けねぇぞ。てめぇも大変な野郎に目をつけられちまったな」


リヴァイは心底同情しているというような目でナマエを見ると二人に背を向けてその場を去っていった。やはり状況が飲み込めないナマエはエルヴィンに肩を抱かれながら小さくなるリヴァイの背中をただ見つめていた。


「…場所を移そうか」


エルヴィンはナマエの手を引きまた団長室へと戻る。エルヴィンが何を考えているのかわからずナマエは微かな恐怖心を抱きながら前を歩く彼の背を見つめていた。団長室の奥にあるエルヴィンの私室に入りその扉の鍵を閉めるとようやくその歩みは止まる。


「……団長、?」


エルヴィンは答えなかったが未だ繋がれたままの手に力がこもる。


「あの…すみません、でした」

「……何が?」

「逃げてしまったこと……でも、やっぱりもう恋人役は出来ません。すみません」

「……それは、恋人役は無関心な方が良いと言ったからか?だとすれば、期待してもいいのかな」

「え…?」


エルヴィンはようやく振り返ると驚くほど穏やかな顔でナマエを見る。


「私に対して無関心でいられなくなった…そういう事だろう?」

「…それは、…」

「意地悪な言い方をしてすまない。つまり私は、君がそう思ってくれていたら嬉しいんだ。ナマエ…君のことが好きだ」


エルヴィンが初めてナマエを見たときから。彼女はそれを知らないが、今はまだ自分の胸にしまっておくことにしよう。そっとナマエの頬に手を添えるとエルヴィンは少し屈んで顔を近づける。


「ナマエ…君の気持ちを聞かせてほしい」

「………私は、団長が好きです」


言い終わると同時に唇が塞がれた。今までの触れるだけのそれとは違い互いを求め合うように深く口付ける。


「…ん、団長…、あの、んっ」

「まだ、…駄目だ。リヴァイにされたままでは私の気が済まない」

「いえ、あの…兵長とはしてません。こう、手を当ててくれていたので」


口に手をあてリヴァイがやったように真似てみるとエルヴィンは一瞬呆けた顔になって、それから眉を下げて笑った。やられたな。エルヴィンそう呟いてナマエを抱き締めるともう一度触れるだけのキスをした。