少しだけ開いた窓から射し込む日の光に反射してきらきらと煌めく銀の髪に、不覚にも時を忘れて見とれていた。


Before a first
〜始まりの前〜


エルヴィンは過去の壁外調査の資料を探すために資料室へと足を運んでいた。盗まれるような貴重なものを置いてある場所でもないため普段から鍵はかかっていない。扉を開けて中に入ると少し湿った紙のにおいが鼻をつく。目的の資料を探して中二階になっているところにはしごを使って登るとふわりの暖かな風が頬を撫でた。視線を向けると少しだけ窓が開いているのが見える。


「(不用心だな…いくらなんでも)」


きっと誰かが閉め忘れたのだろう。ついでに閉めておこうと窓に近づきふと窓際に置かれている椅子に目を向けるとそこには一人の女性兵士が静かに寝息をたてていた。思わず目を瞬くと足音をたてないようにそっとそこに近づく。


「(寝てる…のか。彼女はたしか…ナマエ・ミョウジ、だったか)」


調査兵団に属するものの名前はだいたい頭に入っているエルヴィンだったが、それでもナマエの名前を思い出すのに少し時間がかかった。訓練兵の卒業成績は10番以内であったにもかかわらず調査兵団に入団した変わり者。今まで壁外での目立った実績はなく、しかし生き残っているだけの実力はある。エルヴィンはナマエのデータを頭のなかで読み上げ、また彼女へ視線を落とした。気持ち良さそうに寝息をたてるナマエを見ていると自然と口元が緩む。


「ん……っくしゅ、」

「……」


ナマエはもぞもぞと体を縮めて小さくなると体勢を変えてまた寝息をたて始めた。動いたせいで申し訳程度にかけられていた彼女のジャケットがばさりと落ちる。エルヴィンはそれを拾うとそっと体にかけてやった。これでは寒いだろうな。そう思ったがあいにく体にかけてやるようなものは持っていない。少しでもましな様にと開いたままの窓を閉めると目当ての資料を探すために棚に目を向けた。ぱら、と紙を捲る音でさえも静かなそこでは響くような気がして、資料は自室に持ち帰ることにして静かにそれを閉じる。


「(……風邪を引かないと良いが)」


資料室を出る間際にもう一度ナマエが寝ている方へ視線を向けた。静かにドアノブを回し扉を閉める。エルヴィンはそっと笑みを浮かべると資料室を後にした。

後日、彼女がまたそこへ入っていくのが見えて(しかも欠伸をしながら)エルヴィンは口元を緩めた。また昼寝でもするつもりなのだろうが変にこそこそとせず堂々と入っていくから他のものの目にも留まらないのだろう。今度はその手にしっかりと毛布が握られているのを見てエルヴィンはついに吹き出した。隣を歩くリヴァイが眉間に皺を寄せたがそれも気にならないようだ。


「何だ…頭に虫でも湧いたのか」

「いや、何でもないよ」

「…それにしちゃ随分楽しそうだが」

「あぁ、そうだな…こんな愉快な気分は久しぶりだ」

「…よくわからんが、仕事のしすぎには気を付けろよ」

「そうだな…たまには昼寝でもするか」

「おいおい本当におかしくなっちまったのか?」

「はは、…冗談だ」


訝しげな視線を向けるリヴァイを横目にエルヴィンはナマエの姿を思い浮かべる。数日後、またも資料室で昼寝をしていた彼女と顔を合わせることになるのだが、それはまた別の話。




エルヴィンとの(一方的な)出会いのはなし。