ざわざわと人の多い食堂をぐるりと見回して目当ての人が居ないことがわかるとそそくさとその場を後にした。昼休みだと言うのに食堂に居ないとなると自室だろうか。ナマエは手に持った袋を落とさぬようぎゅ、と握りしめふらふらと廊下を歩いていった。
とある昼下がり
〜リヴァイ兵長と一緒〜
こん、と軽くノックをするといつかと同じように澄んだ声がドアの向こうで響く。名前を名乗り中に入ると部屋の主であるリヴァイが怪訝な顔をしてこちらを見ていた。
「すみません…今よろしかったですか」
「何だ」
「これをお渡ししたくて」
デスクの上に袋を置くとリヴァイの眉間に皺が増える。中身を取りだしそれが紅茶だとわかるとふと表情が(あくまでほんの少しだけ)和らいだが、次の瞬間にはいつもの不機嫌そうな顔に戻っていた。
「これが何だ」
「えっと…お土産です」
「土産だと?」
「はい。この間、団長とシーナに行ったときに買いました」
「…解せねぇな。シーナに行ったからと言って何故てめぇが俺に土産なんか買ってくるんだ」
「それは…」
ナマエは今更ながら本当のことを言っても良いものかと考え込む。故意でないにせよ失礼な態度をとったから、というのがそもそもの理由だが、本人がすでに忘れているのだとしたら更に失礼を働くことになるのではないか。言葉に詰まるナマエを訝しげな目で見つめるリヴァイをちらりと見てまたすぐに視線をそらす。
「その…日頃のお礼と言いますか…」
「てめぇは俺の部下でもなければ普段滅多に会うこともねぇだろうが」
「そうですね…」
「正直に言え」
「………」
「………」
言わないと受け取らねぇぞと半ば脅されながら訳を話すとリヴァイは呆れたようにため息をつく。茶葉の入った缶を手に取り蓋を開けるとすん、と香りを嗅いで悪くねぇなと小さく言った。
「…エルヴィンが選んだんだろ、これ」
「何故…ですか」
「あいつが好みそうな香りだ」
確かに、紅茶について全くの初心者であるナマエはエルヴィンに勧められたものをそのまま購入した。しかしそれを言い当てられるとは思っていなかったため驚きと共に少し申し訳なくなる。
「すみません…兵長の好みではなかったですか」
「悪くねぇと言っただろう」
「それなら…良かったです」
「………なぁ、エルヴィンはこれを買うときお前に何か言っていたか」
「何か…と言いますと?」
「いや、わからねぇなら良い」
リヴァイは口元で手を組んでその陰でほくそ笑む。エルヴィンは自分の惚れてる女が、目の前で他の男に送るものを買っているのを見て何を思っていたのか。真意は本人にしかわからないが大方予想はつく。あとで笑い話にでもしてやろうと企むリヴァイを余所に用が済んだナマエはさっさと退室しようと声をかけるタイミングを見計らっていた。間もなくリヴァイから退室の許しが出たので敬礼をして部屋を出ると、何故か(怪しげな)笑みを浮かべていたリヴァイを思い返してナマエは一人首を捻るのだった。
リヴァイにお土産を渡すお話。
本編9と10の挿話。