明くる日、ナマエは団長室に呼び出されていた。団長室までの道中、心なしかいつもより周囲の目が向けられていたのはきっと気のせいではない。


「どうも私と君のことが噂になっているようなんだ」

「噂…ですか」

「あの子が昨日のことを皆に話したみたいでね」

「…はい」

「そこで君に頼みたいんだが、噂が落ち着くまで少しの間私と付き合っているふりをしてくれないか。時と場合を見てそれらしく振る舞ってくれればあとは自由にしてくれて構わないよ」

「……」


爽やかな笑顔を浮かべたエルヴィンは返事をしないナマエにどうかな?と声をかけるが依然として無言のままだ。

ナマエとエルヴィンは立場の違いもあり今まで殆ど接点は無いが、上司からの使いでエルヴィンの元に書類を届けに来る度に少ないながらも会話はしていた。だが、それだけだ。ナマエはエルヴィンに上司以上の感情は持っていないし、それはエルヴィンも同じはずだ。正直エルヴィンが何故そんな面倒なことを言い出したのかナマエにはわからなかった。


「考えはまとまったかい?」

「はい…まぁ」

「それで?」

「すみませんがお断りします」

「理由は」

「面倒です。それに、私に何の特もないと判断いたしました」

「そうか…」


エルヴィンは少し視線を下げて予想していたとでも言うように小さく笑みをこぼした。ナマエは何となく嫌な予感を感じつつ他に用がないのなら、と言いかけたところでエルヴィンがそれを遮るように口を開く。


「ではこうしたらどうかな…もし私と付き合っているふりをしてくれるなら昨日資料室でサボっていたことは多目に見よう。それとこれからそういったことをするときは奥にある私の私室を使うと良い。資料室より上等なソファもベッドもある。自由に使ってくれて構わないし、ここなら私以外に人は来ない」


くい、と顎で指された扉の向こうは確かにエルヴィンの私室に繋がるそれだった。サボっていたことはやはりばれていたのか、と思う反面尚も食い下がるエルヴィンにナマエは不信感を募らせる。さらに自分の私室を差し出すというのだから尚更だ。


「……何故わざわざ付き合うふりをするのですか。放っておけば噂は勝手に消えると思いますが」

「君もその目で見ただろう?これは自慢ではないが、昨日のようなことが頻繁にあるものだから正直私も困っているんだ」


確かに女性避けなら彼女を作るのが一番だろうが、エルヴィンほどの男の彼女(役)が果たして自分に勤まるのか。ナマエは言い知れぬ不安と葛藤しながらちらりとエルヴィンに視線を向ける。


「……期間は、どれくらいですか」

「長くても数ヶ月だろう」

「………わかりました。やります」

「感謝するよ。それとこれを渡しておこう」

「鍵…ですか」

「私の部屋のものだ。さっき言った通り自由に使ってくれて構わない」

「………はい」


エルヴィンの言う時と場合というのがどんなときかはさておいて、普段はいつも通りで良いと言うのだからこの際腹をくくろう。しかもサボりを黙認するだけでなく今までより上等な寝床を提供してくれるというのだからこれ以上の条件はないだろう。こうしてナマエは不本意ながらもエルヴィンと仮の恋人になる決意をしたのだった。